BACKSTAGE(バックステージ) ”挑戦”に秘められたこだわりと仕事愛
CBCテレビ製作/TBS系全国28局ネット
毎週日曜よる11時30分
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二千年の歴史を誇る、伊勢神宮。その門前町にある「おかげ横丁」は、“お蔭参り”で賑わった江戸時代の街並みを再現。当時のさまざまな文化や遊びが楽しめると人気を博し、年間約550万人にも及ぶ人々が訪れている。そんなおかげ横丁をBACKSTAGEで支えているのが、藤井那緒さん。おかげ横丁を運営する会社に勤めて3年。催事企画部で、季節に合わせた催し物などの企画・運営に携わっている。
春の桜シーズン。横丁から少し離れた五十鈴川周辺では、屋台や腰掛けが並び、お花見を楽しむ「桜まつり」が開催される。それを企画運営しているのが、藤井さんたち。しかし、伊勢神宮門前町のお花見は、私たちがイメージする普通のお花見とは少し異なる。そもそもお花見の起源は、山の神に感謝し、その年の豊作を祈願するお祭りだったと言われている。ここで行われる「桜まつり」は、そんな日本古来の習わしを今に伝えるために企画されたもの。
「私は伊勢で生まれて、伊勢で育ってきた。催事を通して『伊勢の昔からの伝統や文化を感じて』いただき、伊勢のことをもっと知ってもらいたい」
桜満開の4月の週末。この日は、多くの観光客を出迎えるおかげ横丁にとって、特に大切な1日。着物に身を包んだ藤井さんが働く桜まつりの特別屋台では、お花見料理として地元のさまざまな名物が売られていた。
「お料理は全部おかげ横丁の飲食店で作ってもらったもの。どれを食べてもおいしい。こんなにきれいに桜が咲いているのでたくさん来ていただけたら」
藤井さんは、ただ販売を行うだけでなく、伊勢名物“てこね寿し”の注文が入ると自ら飲食店に料理を取りにいき、出来立てをお客さんに手渡す。これは、おかげ横丁の名品を食べてもらおうと藤井さんたちが企画したお届けサービス。花見客からも好評を呼んでいる。
お花見客の姿もまばらになってきた夜9時過ぎ。藤井さんの仕事はまだ終わらない。今度は、作業着に着替えて屋台の解体作業。夜間の安全を考慮し、桜まつりの期間中は毎日解体と組み立てを繰り返しているのだ。この日、藤井さんが仕事を終えたのは夜10時。昼間は賑わっていた門前町もすっかり人の姿がなくなっていた。そんな藤井さんの働く原動力は、“生まれ育った土地への恩返し”。
伊勢神宮から車で約40分の場所に、最近注目を集めている観光地がある。それが「志摩スペイン村」。自虐的なWeb広告が話題を呼び、訪れる人の数が増加。特に学生に関しては、1年前に比べ、2倍もの来場者数を記録した。そんな志摩スペイン村の魅力は、日本にいながらスペインの空気が味わえること。スペインゆかりの名前がついたアトラクションや、美しい街並み。なかでも人気なのが、フラメンコショーをはじめとする本場スペインの一流エンターテインメント。22名のスペイン人パフォーマーたちが、母国から遠く離れた日本で暮らしながら働いている。彼らを支えるのが、スペイン語通訳の香月恵利子さん。通訳だけにととどまらず、日本に不慣れなパフォーマーの私生活もサポートしている。
香月さんが今、一番気にかけているのが、来日2年目のスペイン人ジャグラーのミゲルさん。技術の高さが認められ、1週間前から単独ショーを任されるようになったものの、日本語を使うことに不安を抱えていたのだ。これまではみんなと一緒だったため、日本語を使う必要はそれほどなかったが、単独ショーになるとそうはいかない。さらに、ショーでは観客をゲスト参加させる決まりごとがあるため、お客さんとのかけ合いも発生する。通訳として、日本語で単独ショーを成功させるのが香月さんのミッション。
さっそく香月さんは、ミゲルさんと日本語の猛特訓。単独ショーではお客さんとのかけ合いも大切なパフォーマンスの一部。言葉を間違えば、せっかくの盛り上がりを台無しにしてしまうこともあるため、かけ合いを想定した日本語を教えていく。さらに、少しでも暇があれば、パーク内で起こるさまざまな状況に応じた日本語の使い方も教えていく香月さん。
「彼は日々ブラッシュアップをしに日本語を聞きにきたり、『こういうセリフを言おうと思うんだけれども、どんな表現をしたらいいか』と質問してきたり、勉強熱心なのでこちらも助かっています」
この日、香月さんが仕事を終えて向かったのは、スペイン人パフォーマーたちが暮らす寮。ミゲルさんと仲の良いフラメンコダンサーカップルが住む部屋で、ミゲルさんたちに日本語を教える。時には、買い物にも一緒に行き、自然な会話の中でさまざまな日本の文化を教えるなど、スペイン人キャストに常に寄り添う香月さん。言葉にしにくい“日本人の心”を感じてもらおうと、積極的に各地へ連れ出し日本らしい芸術や風景に触れてもらうこともある。彼らに、この国を好きになってほしい。そんな香月さんの想いに対して、ミゲルさんはこう語る。
「香月さんは、日本の文化や習慣を体験や会話を通して教えてくれるなど、とにかくいろんな話をしてくれます。いうなれば、日本と僕らの架け橋。そこから生まれるのは非常に強い絆であり、僕は彼女を姉妹のように大切に感じているのです」
香月さんとミゲルさんが二人三脚で作りあげた単独ジャグリングショー。本番のステージが、ついに始まった。ステージ裏で見守る香月さん。会場には、子どもから大人までたくさんのお客さんが集まっている。まずは、お客さんとハイタッチをかわし、冒頭の自己紹介を完璧にこなしたミゲルさん。自慢のジャグリングのテクニックでお客さんを魅了する。そして、お客さんを呼び込み日本語でやりとりする最大の見せ場も盛り上がり、ショーは大成功で幕を閉じた。香月さんもミゲルさんも満足そうだ。
パフォーマーとお客さんを“自分の言葉”でつなぐ。それが香月さんの働く原動力。これからも、スペイン人パフォーマーを温かく支えながら、ともにお客さんを笑顔にしていく。