ボクシング世界最速三階級王者
田中恒成 戦いの軌跡
究極のスピード対決!!世界最速三階級王者・田中恒成が「最強挑戦者」相手に史上“最速“の姿を披露する!!
昨年9月。木村翔(青木)との死力を尽くした大激戦の末に2-0判定勝利。史上最速タイ記録となる12戦目での世界3階級制覇を達成。そして今年3月、1年3ヵ月前(2017年末)にライトフライ級王座統一戦として拳を合わせるはずだった“因縁の”田口良一(ワタナベ=元WBA・IBF世界ライトフライ級チャンピオン)との「運命の激突」。これに明白な3-0判定勝利を飾り、初防衛に成功。田中恒成は注目度の高まる「日本人対決」を立て続けにこなし、大熱戦を制してアピールしたはずだった。
しかし、この試合内容、特に田口戦でのパフォーマンスについて、田中本人は表情を曇らせる。序盤に左ボディブローで田口の体をくの字に折るほどのダメージを与え、その後もほぼ一方的に試合を進めながら、宣言していたKO勝利につなげられなかったのだから。
木村、田口とフィジカルの強い選手に対し、ステップワークを極力控え、敢えて体を密着させた戦いに身を投じ、そこでも上回ってみせた。いうなれば、技術で凌駕し、相手の土俵に踏み込んでなお、その戦いでもタフな相手を乗り越えたわけだが、フィジカル勝負に注力しすぎた、というのが田中本人の見解だった。
「男と男の勝負にこだわったわけでは決してなく、相手に合わせてしまう、相手の土俵で戦ってしまう癖があるんです」
振り返れば、田中恒成のボクシングでもっとも目を惹いてきた、彼が“スペシャルな存在”として耳目を集めた“ストロングポイント”は「スピード」だった。パンチのスピード、いわゆるハンドスピードだけでなく、体全体をシャープに華麗に突き動かすスピード──それは、まるでリング上を舞い踊るようで、“田中恒成にしかできない”動きだった。
しかし、フィジカルトレーニングを積み重ねるにつれ、成長過程と相まって体はどんどん大きく強くなっていった。それにともない、体重調整も困難を極めた。そうして階級を一つひとつ上げ、パワーアップも顕著になった。だが、新たな武器を手に入れたと同時に、「ライトフライ級の終わりごろから、スピードの欠如を感じていた」のだという。
そして新たにやってくる“刺客”、指名挑戦者1位のジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)のスタイルが、田中恒成を大いに刺激した。サウスポーのゴンサレスは、2008年アマチュア世界ユース選手権王者。2010年には中米チャンピオンにも輝いた「期待のボクサー」。アマチュア戦績は116勝10敗と、田中の倍以上のキャリアも持つ。
このゴンサレスの映像を見た田中は、「体全体のスピードがあるけれど、特にハンドスピードが速い」と警戒心を高め、そして、「スピードで負けるわけにはいかない」と、プライドをメラメラと燃え盛らせたのだ。
最大のストロングポイントであった「スピードボクシング」を取り戻す。そして、「ゴンサレスをスピード勝負で上回ってみせる」。自身の“原点”に立ち返ることと、ゴンサレスに勝つこと。ふたつの動機がものの見事にタイミング的に合致したのが、今度の戦いだ。
トップスピードを上げて、緩急の幅を広げる。テンポやリズムの刻みに、より厚みを持たせる。「スピードと距離感がテーマ。そして、“自分を解放して自由な動きをどれだけできるか”」。
ここ2戦で示し、自信を得たパワーボクシングは、新たに備わった“引き出し”として収めておく。相手に合わせず、あくまでも自分本位に、自由奔放にリングを駆けめぐる。「目指せ“塩試合”」と田中はクールに微笑むが、それは、人々が熱狂する「打たせて打つ」打撃戦を徹底的に回避し、「打たせず打つ」ボクシングを披露するという決意の表れだ。
「スピードで圧倒し、距離を支配し、最後はKOで勝つ」。
この試合は、田中恒成の“この先”を占う上でも極めて重要な試合となる。
(CBCテレビ:『High FIVE!!』より)