今までの公演
#237 |
中越典子 |
今回のゲストは美人女優中越典子さん。確かな演技力で幅広い役をこなしており、若手実力No.1の呼び声も高い。
設定は「リフォーム中の家」。スタジオにはリフォーム中のリビングダイニングが創られた。鶴瓶板付き、中越フレームインで始まったスジナシ。鶴瓶は比較的ラフな格好でリビング側をうろうろしている。まだ何者かは分からない状況だ。そこへ勢いよく飛び込んできたのが中越。第一声はその中越から。「間に合ったあ!」と安堵の表情である。一体何が間に合ったのか?中越の雰囲気からすると鶴瓶とは垣根が無いような演技にも見える。で、一体何が間に合ったのか?それは中越のイメージからはおよそ想像できないもの。つまり「トイレ」。ギリギリ我慢していたのか、トイレが間に合ったということらしい。開始早々そんなフランクな台詞が飛び出してくる中越に、鶴瓶も思わず“絶句”の状況となった。
しかしこの台詞には裏があり、中越はこの台詞で「何でも言える仲=夫婦」を表現していたのだが、残念ながら鶴瓶には伝わらず(当然と言えば当然で、プレビュートークで突っ込まれ中越は反省しきりでした)、鶴瓶は中越の婚約者の伯父さん役を選択する。その役柄にがっかりする中越をよそ目に、鶴瓶は中越を財産目当てで結婚しようとしている悪女に仕立てようと物語を進行していく。
中越は鶴瓶の意図に気が付きやんわりと否定をするが、鶴瓶はなおも執拗に中越を攻めたてる。中越を椅子に座らせ、鋭い視線で睨みつけ、厳しい言葉で畳み掛ける鶴瓶。そのあまりの迫力に、思わず中越は席を立ち窓辺へと移動し、鶴瓶に背を向けたままじっと佇んでいる。そしてゆっくり間を取った後振り向いた中越の目からは、大粒の涙が溢れ出していた。しかし、その涙で形勢が一気に逆転する。
鶴瓶が中越のことを信用すると決めたのだ。言葉ではなく、表情で相手の心を揺さぶる一級品の演技である。中越は鶴瓶の意図を汲み取りつつも、鶴瓶を越える鋭い眼差しと鬼気迫る存在感で、“悪女”を越えたキャラクターを見事に演じきったのである。
中越は確かに嘗て悪女だったようだ。しかし、今の婚約者に出会って全てが変わったという。過去の自分とは決別して、新しい人生を歩む決意をした。そういう背景が中越から語れたときには、前半にあったようなむき出しの悪意はなく、穏やかな空気に満ちた、しっとりとしたスジナシが完成したのである。