 |
2回目の出演となる勝村政信を迎えた“劇場スジナシ”の設定は「展望台がある公園」である。会場には満席のお客様。鶴瓶もスタッフも始めての“劇場スジナシ”である。鶴瓶はゲストが勝村と知った時、彼の小さな目がキラリと光ったのをスタッフは見逃さなかった。と言うのも勝村を始めて迎えた1回目のクマの着グルミに鶴瓶は見事に踊らされたという経緯がある。「リベンジしたるんや・・」と心したのである。本番前、寒い中早くから会場に来ていただいていたお客様が全員席に着き満席状態になる。一方楽屋で衣装替えの鶴瓶は、スタッフが用意した複数の衣装類の中に女性用のカツラと赤いワンピースを見てニヤリと笑った。「むこうが飛び道具できたんやから今回は俺はこれで行ったる。」とおもむろに着替え長い髪型のカツラをつけ鏡に向かう。自分の姿を見て「ワハハハ!」と笑い出す鶴瓶。スタッフが「鶴瓶さんのお姉さんそのままですやん。」というと「アカン・・こんなんしたら俺が自分で笑ろてしもて芝居できひん・・」と却下。もう一つ用意されていた短めのカツラをつける。「これやったらどやろ・・」ニンマリの鶴瓶。本番開始、いつものようにメールやハガキを紹介して勝村を迎える。「前回は悔しくて眠れなかったんや・・。」と勝村に言いながらも鶴瓶は珍しく仕込んである“カツラ爆弾”の効果を期待してニヤニヤしている。「ははは、そうですか・・」と一方の勝村は余裕の表情。2人でセットを見た後いよいよドラマのスタートである。カウントダウンが行われ鶴瓶は、そそくさと袖でこっそりカツラをつける。先に上手から舞台に出たのは勝村だった。カツラの鶴瓶も下手から出る。客席の最前列のお客様は鶴瓶を見て慌ててハンケチを取り出し口を押さえる。苦しそうだ・・。鶴瓶を見たのか見ないのか確認できないまま勝村は突然走り出した。ランニングをしに公園に来ている男である。鶴瓶はお茶を片手にベンチに座っている。客席を通り抜けて会場を周回する勝村。無言・・互いに相手の出方を探っているのだ。体操をしながら「あ~!あ、あ、あ~!」と発生練習のようなことをする勝村。それを見て先にセリフを口にしたのは鶴瓶だった。「昨日言うたことな・・。もう忘れてしまったけど・・。」勝村は無視だ。「あの・・、昨日言うたことやけど・・。もう忘れてしもたんや・・。」相変わらず反応しない勝村。鶴瓶は仕方なく芝居の稽古のように取り繕う。おもむろに立ち上がって「あ、あ、あ~・・昨日言うたことやけど。もう忘れて・・」と稽古をする。鶴瓶も勝村に無視されたことが悔しかったのか急に客席に降りて走り出す。勝村は空いたベンチに座って鶴瓶が飲んでいたお茶を飲む。舞台に戻った鶴瓶。お茶を飲んでいる勝村に「あの~、そのお茶・・。」「は?」「それ僕の・・・お茶・・。」「何言ってるんですか?これは僕のです。」と平然と返す勝村。「僕はね、この缶にある俳句がすきなんですよ。」と言いながら俳句を詠む。笑いを堪えるお客様と鶴瓶。そんなせめぎ合いで鶴瓶はすっかり自分の“カツラ爆弾”を忘れてしまっている様子。ここから2人の絡みが始まった。鶴瓶が「あの、お宅も劇団の卵か何かですか?」「え?」「そやから、あのさっき練習してはったみたいやから・・。」「劇団の卵って何ですか?」と揚げ足をとる勝村。逆に鶴瓶に「お宅は?」「ああ、僕はね・・。役者の卵なんですわ・・。」とこれまでの流れを否定できない鶴瓶。「ほう・・。どこの劇団なんですか?」「いや無名やから・・。」「いや知ってるかもしれないから・・。劇団の名前は?」「あの~・・・劇団・・・あおば・・・です。」と苦し紛れの劇団名を口にする。「ああ!知ってます!」と受ける勝村。「え?ほんまですか?」と乗ってしまう鶴瓶。そこからはもう一方的に勝村のペースになる。「さっきのはセリフですか?」「ええ、そうなんですがうまくできなくて練習してたんです。」「どんなストーリーの?」「え?あの・・」「あなたの役は?」「雪が降って転んで頭打って記憶喪失になった男です・・。」と最初に口にしたセリフのつじつまを合わせる鶴瓶。「へぇ~そうなんだ。ちょっと見せて貰っていいですか?」「ええかまいませんけど・・。」・・・・・。「昨日言うたことやけど・・もう忘れてしもた・・」「それじゃダメじゃないですか?」「え?」「もっと動きが無いと・・。」これは、いつか見た流れである。鶴瓶が勝村の指示で踊らざるを得なくなっている・・。ひとしきり動かされ鶴瓶のこめかみに汗が流れる。勝村はすかさず指摘する。「こめかみが・・。こんなふうに・・上がってますよ・・。ぷっ・・」カツラを指摘したのだ!突然の指摘に慌てる鶴瓶。「え?」「・・ぷっ・・。」動揺した鶴瓶は、「あのな・・あんたな・・。失礼やろ!」と怒る。勝村に自分が仕掛けたカツラ爆弾を見事に利用されてしまっている。この展開になれば鶴瓶はもう為す術もない。その後は延々と一方的に鶴瓶が踊らされる。「他にはどんな役の方がいるんですか?」「その人のセリフは?」「で?その後どうなるの?」鶴瓶が少しでも不自然な説明をするとすかさず指摘する勝村。会場からは鶴瓶に同情の視線・・。鶴瓶はリベンジどころか数倍もの返り討ちにあって撃沈したのだった。