私の師匠・欽ちゃんは“人をヤル気にさせる言葉の魔術師!”

片岡安祐美

世の中で活躍する著名人たちにインタビューし、多大な影響を受けた師匠とのエピソードを紹介していく。
今回は、2005年に茨城ゴールデンゴールズに入団し、2011年から選手兼監督に就任した片岡安祐美さんについて聞いてみた。

ボクがその夢かなえさせてあげる

私の師匠はもちろん欽ちゃんこと萩本欽一さん。師匠との出会いは高校三年生の12月。軟式野球大会の決勝戦のイベントで福岡ドームへ欽ちゃんが来ると聞きました。ゴールデンゴールズの球団関係者の方から父に連絡が入り、会いに行ったのが初対面。まだその時はチームに入団すると決まっていなかったですし、軽いノリで会いに出かけたことを覚えています。

欽ちゃんと会っていきなり「いい目してるね!そんな目を見たのはキムタク以来だ!」と褒められました。「将来の夢は何?」と聞かれ、「野球に携わる仕事をしたい」と返答したところ、欽ちゃんは「携わるだけでいいの?」と。それを聞いた私は思わず本音をぶつけました。

「本当はプロ野球選手になりたいです!」

欽ちゃんはすかさず「じゃあ、その夢ボクがかなえさせてあげる」とおっしゃってくれました。プロ野球選手になれないとあきらめていただけに、もう心はワクワクの思いでしかありませんでした。

誰かのために野球をやりなさい

欽ちゃんから受けた影響、それはもうたくさんありますが、ゴールデンゴールズに入って最初に教わった“自分のためではなく誰かのために野球をやりなさい”と言われたことが一番でしょうか。

ある時、選手全員に写真を一枚持ってこいと言われました。実家にいるお母さんのために一生懸命頑張ると思ったら、お母さんの写真を持ってこいと。おばあちゃんでも奥さんでも彼女でもいいと言われました。選手全員が持ってきた写真を大きな額に入れ、常時ベンチに飾っていました。ビジターゲームも持っていきましたね。私は家族4人の写真を選びました。

欽ちゃんの意図は、私たち選手が思いもつかない素晴らしいものでした。

「自分のためにプレーするのはもちろんだけど、誰かのためにやるんだという気持ちが責任ではないけどもっと頑張らないといけない気持ちを沸き起こしてくれる。だれかを喜ばせたいという気持ちがお前たちの持っている力を全部発揮させてあげられるものにつながる。そして緊張しない人間はダメだ。まったく緊張しない奴はそこに何も感じていないから。程よい緊張感こそが自分の持っている力をさらに発揮させてくれるのよ」

言葉が上手いんですよね、欽ちゃんは

片岡安祐美

ビハインドで負けているゲームの時とか、ネクストバツターズサークルに立って緊張している選手に向かって欽ちゃんは「おい!お前の地元はどっちの方角だ?あっちか!かあちゃん行ってくるね!と一言言おうか。そして打席に入れ」。それを聞いてリラックスしたのか、タイムリーヒットを打った選手を覚えています。人を喜ばせるプレーをしなさいともよく言われました。人を惹き付ける力、ファンにさせる力をいっぱい学びました。

欽ちゃんって、私が言うのもなんですが言葉が上手いんですよね。本人をヤル気にさせるというか、言葉の一言一言がなんとも深い。そして話した相手の気持ちをプラスに、そして明るい方向へ持っていってくれる。言葉のチョイスが抜群の方です。今までにたくさん有難い言葉を頂いたのですが、監督になった時に“可愛いがられる監督になりなさい”と言われたことが今でも一番心に残っています。

可愛がられる監督になりなさい

欽ちゃんからまさかの監督指名。当初、まったくその真意がつかめませんでした。私なりに監督とは、プロ野球の監督のようなドッシリ構えた姿を目指したものの、野球の技術力、そして指導力が身についていたわけではありません。時が経つにつれ、選手達とのコミュニケーションが上手く取れず、次第に揉め事が生じました。チーム環境は最悪。自律神経失調症にかかるほど、監督という重圧に潰されそうな日々が続きました。頑固な性格が災いしてか、素直な気持ちを伝えきれていなかったのがいけなかったのです。自分の弱さや知識量のなさを認め、選手達に想いのすべてを伝えました。4年目のある日、それまで“チームのために”とか“ファンの皆さんのために”とインタビューに答えていた選手たちが“安祐美さんのために”と言ってくれたのです。そしてその年、念願の初優勝を勝ち取りました。分からない事は頼る、監督だからといって、決して上から目線の態度を取らない。欽ちゃんの「可愛がられる監督」の真意はここにあるのかと、気づいたものでした。勝利の余韻に浸っている時に初めて“私のために…これが可愛がられるっていう意味なのか!”と実感。欽ちゃんにはまだ確かめていないのですが、いつかその“答え合わせ”をしてみたいです。

このインタビューは、プロが恩人である師匠と対面し、指導を受けた“下積み時代”を語り合うドキュメントバラエティ「師弟ご対面SHOW ~私、一人前ですか?~」(9月15日・14時からTBS系列で放送)のスピンオフ企画

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