「愛のある叱咤激励があったからこそ、今の自分がいる」

高橋真麻

各界で活躍する人たちにインタビューし、多大な影響を受けた師匠とのエピソードを紹介していく。
今回は、フリーアナウンサーでCBCテレビ「チャント!」の月曜コメンテーター高橋真麻がお師匠さんについて語った。

腐りかけていた自分を救ってくれた師匠の助言

私にとって俳優の高橋英樹は、父親を超えて、師匠のような存在だと思っています。

同じ業界でありながら、父は俳優で私はアナウンサー。やっていることは違いますが、業界内での頑張り方や心得、さらに、社会人として、人として大切なことを教えてくれたのは父です。

120%の努力をしてようやくテレビ局のアナウンサーになれたのに、コネだとかブサイクだと言われて叩かれ、とても傷ついたとき、父は「だったら“コネだと思ってたけどそうじゃなかった。真麻は実力で入ったんだね”って言われるぐらいがんばれ」という言葉をくれました。

その後、入社2~3年目の頃、「空いている女子アナなら誰でもいい」という仕事ばかりで、やりたい仕事がまわってこなくてモチベーションが上がらず、心が腐りかけていたときも、「誰がやってもいい仕事こそ一生懸命やりなさい。そうすれば“誰でもいいと思ってお願いしたけど、真麻に担当してもらって良かった。次は真麻を指名しよう”ってなるから」と言ってくれたことで気持ちが切り替わり、これまで以上に一生懸命仕事に取り組むようになって、少しずつ好転していきました。

父の演じる姿から自然に学んだニュース読みの「間」

高橋真麻

私がニュースを読む姿を観たことがない人は多いかもしれませんが、実はテレビ局に入社してからBSや報道番組のナレーションでずっとニュースに触れてきています。アナウンサーの個性やセンスは、ニュース原稿を読むときにも出るものだと私は思っていて、マツコ・デラックスさんが「真麻のニュース読みは上手い」と評価してくださったことがあり、うれしかったですし、自信にもつながりました。

ニュースを読むときに、私が大事だな、センスだなと感じるのは、「間」です。句読点や行間の息の取り方、間合いは、幼少期に父の舞台、映画、テレビ、時代劇を観てきたことで培ってきたものです。もっと言えば、バラエティー番組での所作や対応の仕方も、幼少期のいろんな経験が生きているから、それも父のおかげだと思っています。

辛い気持ちに寄り添うのではなく、叱咤激励

悩みを父に相談するのは、家族ですから私のことをいちばんわかっていますし、業界の先輩、人生の先輩として尊敬しているからです。一緒に車で移動しているとき、食事をしているとき、あるいは、食後の団らんで話しの流れで相談することもあれば、改まった空気で相談したこともあります。

父は「そうだな、よしよし、かわいそうだね」と言って寄り添ってくれるのではなく、叱咤激励型。「一緒に乗り越えよう」よりも「助言はするからひとりで乗り越えなさい」です。当時は「なんで“頑張ってるね、よしよし”って言ってくれないの?私は癒されたいだけなのに……」みたいな気持ちになったこともありました。でも、辛かったときに甘やかす親だったら、きっと今の私はいないから、あのときの父の対応は間違っていなかったと思います。愛のある厳しさですね、飴と鞭がはっきりしています。

「師匠と呼べる人が多ければ多いほど、人生は豊かになる」

父は常々「師匠と呼べる人が多ければ多いほど人生は豊かになる」と話していました。父が言う師匠は、お芝居のための踊りや殺陣、そして、趣味の絵画や書道の本格的な師匠のこと。父は師匠がたくさんいて本当に豊かな人生だと思います。私は続かないんですよ、お稽古が。小さい頃はピアノ、書道、絵画、フィギュアスケート、バレエ、エアロビクス、ゴルフ、英会話、およそ10数の習いごとをしましたが、何ひとつ身になっていなくて(笑)。
父親とはタイプが違うんですね。

また、父を支え続ける母もすごいなと思っています。私がこれだけ父を尊敬できるのは、父が単身赴任をして京都で撮影をしていた頃、母と買い物に行くと必ず「これはパパが働いたお金で買っているから、帰ったらパパに電話をしてお礼を言いましょうね」「パパが京都で一生懸命お仕事をしているから、あなたは美味しいものが食べられるのよ」と、私に言い聞かせていたことも影響しています。

父は私の憧れでもあります。俳優としてキャリアを積んできただけでなく、昔の作品は今見ても素晴らしいですし、仕事を一生懸命頑張り、励み、師匠と呼べる人がたくさんいて趣味も充実している。私も将来、父のようになりたいです。

「何か困難な壁にぶち当たったとき、それを回避することを覚えてしまったら一生回避し続ける人生になってしまう。だから、壁を乗り越え、耐える力を身につけなさい」と、父が話してくれたこともありました。今の自分があるのは、こうした父の助言があるからこそ。やはり父は私の師匠です。

(このコラムはプロが恩人である師匠と対面、指導を受けた“下積み時代”を語り合うドキュメントバラエティ「師弟ご対面SHOW ~私、一人前ですか?~」(9月15日14時からTBS系列で放送)のスピンオフ企画)

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