お子様ランチは日本生まれ~そこに懐石料理伝統の“魂と技”を見た!

お子様ランチは日本生まれ~そこに懐石料理伝統の“魂と技”を見た!

プレート(皿)の上はまるでワンダーランドのようだ。海老フライ、ハンバーグ、そしてスパゲッティなど子どもにとって魅力的な料理が所狭しと盛りつけられている。そんな「お子様ランチ」は日本生まれである。

ルーツは東京のデパートにあった。1930年(昭和5年)、日本橋にある三越の食堂スタッフが、人気のメニューを少しずつ皿に盛りつけた子ども用の特別な定食を考えた。コロッケ、ハム、スパゲティ、卵サンドにジャムサンド、ケチャップライスには「三越」マークの旗が立つ。前年に世界恐慌が起きて、日本国内の不況も深刻な中、「せめて子どもたちにはデパートに来て楽しい気持ちになってほしい」という思いだったと伝えられている。名づけて「御子様定食」。値段は当時の30銭、現在の円に換算すると約180円だった。

「お子様ランチ」という名前が登場したのは、その3か月後のこと。ライバル松坂屋が上野店で同じような子ども向けの定食を発売した。値段は三越と同じ30銭で、コロッケの他はオムレツやグリーンピースを乗せたご飯など、メニュー内容は違っていた。こちらはちょうど3月のデビューだったため、上野の公園でお花見をした家族連れに人気となった。その定食の名前が「お子様ランチ」、次第にこのネーミングが定着していった。

料理の内容だけでなく、「お子様ランチ」には子どもたちを喜ばせる様々な工夫がなされていった。皿には、新幹線や飛行機など乗り物をイメージしたものが登場、上野動物園に初めてパンダがやって来た時には、パンダの形をした皿もお目見えした。ケチャップライスの上の部分だけを白いご飯に替えて「富士山」に見立てた。その上には日の丸の旗が立てられた。1960年代になって特撮テレビのヒーロー「ウルトラマン」が登場すると、その小さなおもちゃがオマケに付いたこともあった。子どもたちに大変な人気で、休日には1日で1000食の注文もあったそうだ。

画像『写真AC』より「こどもの日のお子様ランチ」

子どもたちに人気の「お子様ランチ」だが、「美味しい料理をちょっとずつ」というコンセプトは大人たちにとっても魅力である。特に食べる量を控えたい年配の人や女性などを中心に「お子様ランチ」を注文したい大人も現れた。しかし、料理を作る側からすると、多くの種類を少しずつ盛りつけることは、実は大変な手間がかかる。利益もなかなか上がりにくい。あくまでも大人には別メニューを選んでもらいたいと「注文は小学生以下まで」とするお店が多かった。このため、あえて「大人のお子様ランチ」なる遊び心満載のメニューを出すレストランも登場したが、発祥の店である三越デパート、例えば名古屋三越星ヶ丘店のレストランにある880円の「お子様ランチ」は年齢制限なし、子どもから大人まですべての客が注文できる。赤い機関車のプレート、煙突部分からはドライアイスによって白い“煙”が出る演出は、世代を越えて食事の楽しさに誘(いざな)ってくれる。

画像『写真AC』より「和食八寸」

日本伝統の懐石料理には「八寸(はっすん)」と呼ばれるメニューがある、八寸(約24センチ)の盆に、季節の食材を中心に手の込んだ料理が少しずつ並ぶ。料理人の腕の見せどころだ。実は「お子様ランチ」は「八寸」のようなメニューかもしれない。
美味しいものをちょっとずつ。見ても楽しい、食べても楽しい。「お子様ランチ」には、日本料理の“伝統”そして“魂と技”がこめられているのではないだろうか。
日本生まれ・・・「お子様ランチは文化である」。

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして紹介します。

【東西南北論説風(228) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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