クレマカタラーナ(crema catalana)という菓子がある。
スペインのカタルーニャ州の名物菓子で、カスタードクリームを固めて表面を焼いてある。バルセロナを訪れた時にデザートに注文したのだが、フランスの菓子・クレームブリュレと似ていた印象だった。
香ばしい味を楽しみながら、バルセロナはスペインにありながら、実はほとんどフランスに近い街なのだと実感したことを思い出す。
そのバルセロナを州都に持つカタルーニャ自治州を世界が見つめている。
その行方を心配しながら・・・。
ちょうど1か月前になるが、10月1日、カタルーニャ自治州で独立の是非を問う住民投票が行われた。
その結果、独立賛成の票は90%に達したのだが、この動きに対してスペインの中央政府は即座に「投票は違憲である」との姿勢を打ち出した。
その後、ラホイ首相はカタルーニャ自治州の自治権停止と州議会の解散を宣言したが、
自治州のプチデモン首相は猛反発、州議会は一方的に独立宣言を可決した。
10月27日になって政府は、州議会の解散と新たな議会選挙を12月に実施すると発表し、州の自治権を停止し、プチデモン氏も首相を解任された。反逆罪に問われる動きもある。
一方でカタルーニャ自治州が独立に向けて一枚岩かと言えばそうではない。
住民投票の投票率は43%に留まっていて、独立反対派は棄権したと見られている。
この週末もバルセロナでは独立に反対する市民たち30万人によるデモが行われ、「スペイン万歳」と叫び、スペインは1つであると訴えるなど、カタルーニャをめぐる混乱は収まっていない。
しかし、ヨーロッパで起きているこの事態に、EU(ヨーロッパ連合)はスペイン政府を支持しながらも静観を続けているように見える。
古い歴史を持つヨーロッパでは、各地で独立への火種がくすぶっている。
かつて特派員として、旧ユーゴスラビアでセルビアからの独立をめざしたコソボ自治州を取材した時も、中東のパレスチナを取材した時も、歴史と現実の狭間で苦悩する人々の何ともやるせないパワーを感じた。
そこには哀しさが漂っていた。
今も英国はスコットランドの独立問題を抱え、ベルギーでもフランドル地方がフランス語圏とオランダ語圏に揺れている。
17州の1つにカタルーニャを持つスペインにはもう1つ、停戦を宣言したもののかつてはテロ活動を繰り返したバスク自治州もある。
今回のカタルーニャ自治州の独立問題が、他への連鎖を巻き起こすことをヨーロッパ全体が恐れている。
スポーツの世界にまで影響は及んできている。
「FCバルセロナ」に所属するジェラール・ピケ選手が独立支持をツイッターで表明、代表チームから外れるか否かという騒ぎにまで発展した。
また、カタルーニャの地元チーム「ジローナ」が首都マドリードの強豪「レアル・マドリード」を破った際には、中央に一矢報いたと街は大騒ぎになったと現地からの報道は伝えている。
20世紀末にコソボ自治州の独立をめぐり、セルビア共和国に対しNATO(北大西洋条約機構)が空爆を実施した時、Jリーグ名古屋グランパスに所属していたセルビア出身のドラガン・ストイコビッチ選手は「空爆をやめろ!」と英語で書いたシャツをピッチで見せてアピールをしたこともあった。
緑の芝生に似合わない悲しい場面だった。
ヨーロッパでは独立問題だけではなく、難民問題も解決されていない。
10月、オーストリアでは国民議会の選挙結果で、難民に厳しい政策を求める国民党が第一党になった。
9月にはドイツの下院選で極右政党が議席を伸ばした。
英国のEU離脱決定も難民への対応が1つの要因でもあったように、「ヨーロッパはひとつ」を謳い文句に実現したEUが直面するテーマは山積みである。
だからこそ、カタルーニャ問題に対して、EUの静観はありえないのではないだろうか。今回の独立騒動には歴史と共に経済問題が大きな理由となっている。
カタルーニャはスペインの中でも経済的に優位であり、自分たちが国を支えているという強烈な自負もある。
EUが経済圏としての一体を主張するならば、カタルーニャの独立問題をスペインだけの国内問題としてはいけない。
ヨーロッパ全体の問題として、本腰を入れて向き合うべきであり、今こそEUの積極的な動きに期待したい。
バルセロナの町には、カタルーニャ出身の建築家アントニオ・ガウディが残した教会や公園などの名所と並んで、ピカソ美術館がある。
館内にはピカソが、同じくスペインが生んだ画家ベラスケスの名画「女官たち(ラス・メニーナス)」を自分なりにアレンジした連作シリーズが展示されている。
ベラスケスの絵はマドリードのプラド美術館に、そしてピカソの絵はカタルーニャのバルセロナに・・・。
2つの都市は二人の画家の絆によって結ばれている。
【東西南北論説風(17) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】
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※足成