スポーツの秋。
そんな中、卓球は空前のブームだそうである。
卓球台を備えた体育館なども利用したい人の人気殺到、ネット上には「練習会場を確保する抽選必勝法」などの指南ページまで登場している。
卓球台も生産が需要に追いつかず、学校から発注してもすぐには品が届かない特需だそうだ。
「地味」とか「根暗のスポーツ」とか言われた日々がまるで嘘のよう。"愛ちゃん"と皆に親しまれている福原愛選手が火を点けた卓球人気も、1年前のリオデジャネイロ五輪のメダルラッシュで完全に燃え上がったと言えようか。
卓球を本格的に始めたのは中学時代だった。
通っていた中学校には、卓球指導者としては全国的にも有名な顧問の先生がいた。
ジュニアスポーツは指導者の力量が大きな影響を持つ。
この先生のお陰で私たちの母校は、いわゆる"強豪"と呼ばれていた。
その分、練習もハードだった。当時はまだ週休2日制ではないため、月曜から土曜までの授業後は練習。
さらに、日曜の午後にも練習があった。
文字通り"卓球漬け"の毎日で、ラケットを握らない日はほぼなかった。
そして、その練習にはすべて顧問の先生が立ち会って指導して下さった。
教員の長時間労働が問題化している。
2017年8月、文部科学省の中央教育審議会・特別部会は「学校における働き方改革に係る緊急提言」をまとめて発表した。
その全文を読んでみたが、最初の一文に「勤務時間を意識した働き方を進めること」と、一般企業ではすでに当たり前に言われていることが明言されているところに、この問題の根深さがある。
1972年(昭和47年)に制定された法律に「教員給与特別措置法(給特法)」がある。その中で、教員には時間外勤務手当や休日勤務手当は支給されず、その代わりに基本給の4%にあたる調整額が支給されることが定められている。
すなわち、法律上、教員の残業時間はゼロなのだ。
その流れが半世紀近くにわたり学校の先生を巻き込んできた。
その流れを変えようというのが、今回の緊急提言である。
提言の中では、学校の働き方改革について、いくつかの具体的な案を示している。
まず目につくのが、勤務時間を把握するためにICT(情報通信技術)やタイムカードなど客観的な集計システムを導入すること。
さらに、職員会議や部活動などは勤務時間を考慮した時間設定を行い休養日も設けること。そして、夏休みなど長期休暇期間には一定期間の「学校閉庁日」を設けることなどが提言されている。
文科省の最新の実態調査では、タイムカードなどで退勤の時刻を記録していると回答したのは、小学校で10.3%、中学校で13.3%。はたしてタイムカードというシステムが有効かどうかはともかく、勤務時間の把握が、いかに教員の自己申告に委ねられているかという現状はうかがい知ることができる。
2016年12月に連合総研がまとめた「日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する研究委員会」報告書では、在校時間について、小学校教諭が平均11時間33分、中学校教諭が平均12時間12分であり、民間の労働者の平均9時間15分に比べて相当長いことが指摘されている。
その上で、出退勤の正確な記録は9割近くが把握されておらず、報告書は「学校管理者の労働時間管理の欠落と労働者の労働時間意識の欠落」と指摘している。
文科省の緊急提言はまとまった。
しかし、大切なのは次の一歩である。
タイムカード導入にせよ、教員をサポートするスタッフ派遣にせよ、しっかりした予算措置があってのこと。
半世紀もの流れを変えるには相当なパワーがいることだけは間違いない。
そして忘れてならないのは「教員」すなわち「学校の先生」という仕事の重要性である。緊急提言の中にも「毎日児童生徒と向き合う教員という仕事の特性も考慮しつつ」という文言があるように、その存在は教え子の人生に大きな影響を与えるからだ。
中学時代に卓球の基本を徹底的にたたき込まれたお陰で、高校そして大学と卓球人生が続いた。
大切な仲間もいっぱいできた。それは10代前半での顧問の先生の熱心な指導があったからこそと今でも感謝しているが、先生の私生活そして健康面などに支障はなかったのだろうか・・・。
そう言えば、日曜日の練習の時に、まだよちよち歩きの男の子が体育館の隅にいて、ピンポン球を並べて遊んでいたような・・・。
先生の幼き長男だった。
働き方改革の動きは、過去の記憶まで呼び起こす大きなうねりとなって押し寄せている。
【東西南北論説風(13) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】