8月19日夕刻、瑞穂陸上競技場。いよいよペナキッズ対愛知FCjr.選抜との最終決戦が始まろうとしていた。スタンドではJリーグのサポーターに混じって、ペナキッズと愛知FCのファンが固唾を呑んでいる。
「パーティーの始まりだ!」
午後5時、ワッキーコーチの掛け声を受けてピッチ中央へ整列したペナキッズ。審判のコイントスでサイドが決まった。そして、いよいよ試合開始のホイッスルが響き・・・。
愛知FCはキックオフと同時に果敢に攻撃を仕掛ける。俊足堀井君が巧みにペナキッズゴールへ突進する。対するペナキッズは隼大、木村を中心としたDF陣が反応、危機的状況をクリアしてゆく。
防戦が続く中、ペナキッズの攻撃は前半4分、相手DFのミスからあきとが相手ゴール正面でボールをゲット。しかし、シュートが打てずに無得点。この決定的場面を活かせなかったFW陣にヒデ監督が叫ぶ。
「もう一回やれば良い!」
解説の沢入氏が残念がる。
「もっとシュートを打つことをイメージしてこぼれ球に対処していたら・・・」
前半6分、決定的チャンスをつかんだのは愛知FC。ペナキッズゴール前でパスを受けた堀井君がGK翔耶と1対1となる。失点を覚悟したその瞬間、翔耶が持ち前の鋭いジャンプでゴールを死守。瑞穂のスタンドを沸かせた。
その後も、自陣に攻め込まれるペナキッズ。しかし、翔耶のセーブや、4年生とは思えぬ木村の堅実なプレーで失点を許さない。ペナキッズは我慢のプレーでチャンスを待っていた。しかし・・・。
0-0。前半14分が過ぎようとしていた。そこまで懸命にゴールラインを死守してきたDF陣が遂に抜かれた。愛知FC、村上君のシュートが決まり0-1。
更に、前半18分。大きくクリアしようとした隼大のボールが相手に阻まれ2点目を献上。0-2で前半を終えた。
ベンチに戻ったキッズに監督、コーチから指示が飛ぶ。
「2点に抑えているから向こうも我々を脅威に思っている。後半はすきを見て点を取りに行け。泣いても笑っても残り20分。とにかく走りきっちゃって!とおやは途中でぶっ倒れるぐらいまで走って!」
そして後半開始直前、ピッチへと向かうまさゆきにワッキーコーチが声をかけた。
「お前もっと自信持ってやりたいことやれよ。出来るから!」
更にピッチに立つイレブンに向かって叫んだ。
「お前ら戦えよ!もっと!」
後半、攻撃への積極性が芽生える。しかし、一方で守備に乱れが生じ、後半3分、そして5分に失点。0-4とリードを広げられる。
ここで監督は、とおやをベンチに下げ、りょうをピッチに送り出し、全体的に上げ気味で攻撃的布陣をひくよう指示。なんとしても得点を取るために流れを変える作戦に出た。ベンチに戻ったとおやは、ここまで誰よりも得点したいという気概を持ってプレーしてきた。過去、名古屋レディース戦では貴重な決勝点を上げ、チームを勝利に導いた。将来の夢は日本代表選手としてW杯優勝すること。そんな彼はベンチに腰を下ろすと堰が切れたように泣いた。
スタンドには家族や、今まで対戦したチームが応援に駆けつけてくれていた。名古屋レディースのメンバーも大きな声援を送ってくれていた。その中に、ペナキッズ最高顧問としてキッズを鼓舞し、岐阜長良川ではゴールキーパーとして練習に参加してくれたミスターナガレ(萩原流行)の姿もあった。ウェスタン姿のミスターはただひたすらキッズの戦いを見つめていた。
空が赤く染まりかけていた。スタンドの声援が次第に大きくなる中、ペナキッズに残された時間もわずかとなっていた。なんとしても1点とりたい。その思いでピッチを駆ける彼らの脳裏にはこの4ヶ月の出来事が蘇っていたのか。海や山へも行った。神社でたこ焼きも食べた。銭湯で裸の付き合いをしたこともある。バーベキューパーティもやった。サッカー以外にも貴重な時間を積み重ねてきた。この時期、確実にともに過ごした思い出がペナキッズに胸に刻まれている。
愛知FCのゴールは遠かった。0-4。瑞穂陸上競技場での戦いは終わった。
ペナルティとペナキッズとの出会いはおよそ4ヶ月前にさかのぼる。その時、愛知FCjr.選抜との戦いは0-15という大敗であった。
瑞穂でのリベンジ戦。試合後、監督はキッズへ語りかけた。
「決して下を向かなくて良いと思います。負けは負けとしてその悔しさは忘れなければ良いと思います。決して自分たちだけのミスではなく、監督、コーチのミスでもあります。自信を持って良い」
コーチが続く。
「4ヶ月前の大敗のとき、皆はさほど悔しそうでもなかった。しかし今回は悔しい。0-4で良かったという人はいなかった。それが嬉しい」
瑞穂陸上競技場の中では夜のメインイベント、Jリーグの試合のためにカクテルライトが点灯。競技場外のペナキッズにもその明かりが届く。
別れの時が近づいていた。
ヒデ監督はいつになく顔をこわばらせていた。
キャプテン隼大がキッズを代表して監督、コーチに最後の挨拶を始めた、その時だった。ヒデ監督が壊れた。こらえていた涙はもはや止めようもなく、監督の頬を濡らし続ける。
「きっと皆大人になって忘れるかも知れないけど、悔しさを忘れないで頑張って下さい」
ヒデ監督の震える言葉に、ワッキーコーチは必死に耐えていた。そして最後の言葉を伝えた。
「素晴らしいチームだったと思いますよ。胸張って豊山に帰りましょう」
西日に染まる瑞穂陸上競技場。そこで、新たなるペナキッズの戦いのために「最後の円陣」が組まれたのだった。
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