一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>必ず泣ける!はなわの歌『お義父さん』で泣けないテレビ番組の作り方

 共有する
  • Facebookで共有する
  • LINEで送る
<コラム>必ず泣ける!はなわの歌『お義父さん』で泣けないテレビ番組の作り方
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

「ゲストには、はなわが登場! 必ず泣ける話題の名曲『お義父さん』を熱唱!」

20日深夜、名古屋のCBCテレビで放送されていた『本能Z』の冒頭ナレーションは言い切った。

ちなみに読み手は、『ゴゴスマ』の司会を務め、オリコンニュースによれば“いい意味であざとい素顔”の持ち主、同局の石井亮次アナウンサーである。

『お義父さん』は、芸人のはなわさんが去年、奥様の誕生日に贈った歌で、義父に対するメッセージをまとめたもの。YouTubeで動画を公開したところ、その内容が感動を呼び、20日間で再生数は100万回に上ったそうだ。

という情報を今回の番組で知った私。フルコーラスで聞いたこともなかったため、いたく歌が楽しみに。だが歌は待てど暮らせど流れず、番組の最後まで引っ張りに引っ張られた挙句、ようやく聞くことができた。

……。あれ……、泣けない……ぞ……。

とても素晴らしい歌詞とメロディーなのだが、ウルっとも来ない。石井アナが「必ず泣ける」と念押ししていただけに、人として非常にマズい。

と思って記憶を整理していたら、その理由が分かった。単に番組の構成の問題だったのだ。

人はたいていの場合、泣く前に驚く。『お義父さん』が泣けるポイントは、はなわさんの奥様のユーモラスなエピソードが笑いを誘う1番から、一転して2番で突然彼女と父親をめぐる壮絶な事情が明かされるからだ。

だが今回の番組では、歌の前にあったトークコーナーで、そのあたりの事情という事情全てが予め暴露されていたのである。その中身についてはまだ歌を聴いたことがない方々のために伏せる。

まず歌を聞いて、その後から事情を知った人にとっては、初見時の驚きや感動が思い出され、今回の番組を見ても泣けたのかもしれないが、ほぼ初見だった私にとってはガッツリとネタバレされてからの歌だったので、味わいも何もあったものではなかった。言わば、歌で「トークのおさらい」を見せられていただけなのだから。

また、歌までの構成要素も悪く働いていた気がする。

新しい商売を仕掛けるのが大好きという、はなわさんのお話や、『お義父さん』に関するお金の話は、番組としてはとても面白かったものの、最後の歌に向かって盛り上げていく前提としては合っていなかった。

さらに中継コーナーに出てきた日本一の高校ダンス部の超人的なシンクロ美技や、はなわさんの後輩芸人として登場した、サツマカワRPGさんの絶叫芸など、歌が来るまでの内容それぞれにインパクトや充足感があり過ぎて、番組冒頭部分にあった『お義父さん』に関するいい話が、脳内の“過去フォルダ”に追いやられてしまったような気もした。

念のため言えば、番組制作サイドから見たらきっと今回の構成は正解である。

小説化もされるなど、話題の歌『お義父さん』をめぐる実際の感動的かつ奇跡的なエピソードを、はなわさん本人をゲストに呼んで十分語っていただき、別の力のある各コーナーも見せつつ、番組のラストで、はなわさんの熱唱。

私が歌を待って最後まで番組をしっかり見たように、引っ張られた視聴者も多くいただろうし、そのような構成は視聴率対策的にも王道だからだ。

だが、私にとってはその代償として、はなわさんの歌が、本来持っているはずの魅力を削ぎ落とされた状態で聞こえてきた。その魅力はどこにいったのかと言えば、番組のトークコーナーで先に消費されてしまっていたのである。

歌番組では、歌が時間尺を伴うコンテンツであるがゆえに、その最中に視聴率が下がっていくリスクを持っていると聞いたことがある。これはバラエティー番組ならばなおのことのはずで、冒頭に歌から入るリスクを避けたかったという意図もあるのかもしれない。

しかし、歌の素敵な部分を歌より先に番組側の都合で出し切ってしまったという結果だけに着目すれば、私には“素材泥棒”に見えた。

ここまで、2017年で一番泣ける歌だという『お義父さん』を聞いて全く泣けなかった理由を、延々と番組のせいにしてきた。だが「私が単なる人でなしだから」という可能性も大いにあり、その場合は関係者の皆様に深くお詫びしたい。

文/平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)(14日03:05)

最新コラム

pageup