一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>どうしても音楽と美術が“3”から上がらない…あらゆる手を尽くした男子の『中学政日記』

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<コラム>どうしても音楽と美術が“3”から上がらない…あらゆる手を尽くした男子の『中学政日記』
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

「理想の人は、自分にない才能を持った人です」

 海外でも大人気のヴァイオリニスト・寺下真理子さん。どういうわけか彼女が31日の深夜に名古屋・CBCテレビのバラエティ番組『本能Z』に出演していて、今田耕司さん、東野幸治さん、雨上がり決死隊のお二人を前にそう語っていた。

 その言葉に諸手をあげて賛同する私。そして何と言っても、自分にとっては寺下さんのような方がまさに理想の人だ。私が全く芸術的なセンスを持ち合わせていないからだ。

 アラフォー世代ともなると、それが無くてもさほど困ることはない。しかし、子供の頃にはどうしても避けては通れぬ関所があった。学校の授業だ。

 何度か当コラムにも書いているのだが、私は名古屋市立アウトレイジ中学校(仮名)卒。

 当時の自分の全ては、未来の自分のためにあった。

 殴られようがサンドバッグのままでおり、トイレで水をぶっかけられたあと教室に戻っても「暑かったので」で通した。挑発に乗って反撃してしまえば、“ケンカ1カウント”となり、高校進学の際に重要となる内申書に影響すると考えたからだ。

 内申点、つまり通知表の成績の方は、そういう学校なので比較的楽。しかも当時は相対評価だったため、普通科目は学校に行けば5段階で3、宿題を出せば4、テスト勉強をすれば5となった。

 またアウトレイジ軍団には、勉強は苦手でも運動は得意という輩が多かったが、両親が元々スポーツ選手だったこともあり、体育でも苦労したことはなかった。

 私にとっての鬼門は芸術科目。

 歌のうまさやリズム感は素行の良し悪しに関係なく備わっているものだし、上手に描けている昇り竜や鳳凰っぽいものなど、将来の彼らにとって大切になるかもしれない何かのイメージイラストを披露しあっていたヤンキーたちもいた。

 芸術的センスに欠ける私は、どうすれば手っ取り早く彼らと戦えるかを必死に模索した。

 親に音楽教室や絵画教室で習わせてほしいと願い出れば良かったのかもしれないが、貧乏だったので論外だし、何より自分が嫌いなことをわざわざしたくない。

 そこで思いついたのが、芸術教科担当の教師を籠絡することだった。


■かくして私の通知表から3の数字は消えた

 音楽の授業後、教師に分からないところを聞くふりをして近づき、好みの音楽ジャンルやアーティスト、作曲家などを聞き出しては、近所のCDレンタル店へ走った。その後、機会を見つけては感想を述べ、教師から直接CDを借りて、当時委員会で担当していた昼の校内放送で流すこともした。

 また、その教師が顧問をしている合唱部が、大会に向けた臨時男子部員の募集で困っていれば即座に入部。まだ全然足りなかったため、兼部に難色を示す運動部のカタブツ顧問を政治的に調略し、部員確保の道筋をつけた。

 そうして私は、3の成績は5にならないが、4にはなるということを学んだのだった。

 そのノウハウを生かし、続いて美術教師に接近。絵や彫刻を店で借りてくるわけにはいかないので、当時出来たばかりの名古屋市美術館を企画展ごとに訪れ、1枚100円くらいの「絵葉書」を買っては、教師にお土産として渡すことを続けた。

 かくして私の通知表から3の数字は消えた。そのかわりに音楽と美術の点数の横にある「興味・関心」や「授業態度」などの欄が丸印で埋め尽くされた。

 迎えた高校入試では、内申書・作文・面接で無事志望校に推薦入学。以降、アウトレイジ中学校にいた粗暴な人たちとの関わりは無くなり、これから先にあるとするならば、彼らが事件で逮捕された時にそれをネットニュースで知るくらいだろう。

『こち亀』両さんの「ずるい、ひきょうは敗者のたわごと」という名言を、中学当時に座右の銘としていた私。しかし、未来は意外な方向へとのびた。

 音楽教師にCDを借りて知ったバンドのドラム演奏が本当にかっこよく、お年玉でスティックを購入。高校では軽音楽部に入り、ジャズのビッグバンドでドラムを叩いた。それは大学、社会人へと続き、今も家には複数の打楽器があり、戯れに叩くこともある。

 また、自分にとって美術館や博物館が結果的に大変敷居の低い場所となり、気になった展覧会にはその後も足を運ぶようになった。たまたま通りがかった企画展に入ることもしばしばで、今では特に工芸への関心が高まっている。

 子どものころ、まんまと教師たちを籠絡してやったとほくそ笑んでいたが、実は籠絡されたのは私の方だったのだ。


画像:本能Z収録風景(C)CBCテレビ
平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)(5日12:05)

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