一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>大丈夫か?川瀬名人! M−1愛が強すぎて決勝最下位「ゆにばーす」…半年間密着の中味に戦慄した

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<コラム>大丈夫か?川瀬名人! M−1愛が強すぎて決勝最下位「ゆにばーす」…半年間密着の中味に戦慄した
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 テレビを見ていたら、生放送でもないのに、普段見かけないことが起きていた。

 漫才を終えたコンビのうち、お一人が口を押さえたまま立ち尽くしているではないか。青のスーツ、白シャツにネクタイ。去年のM−1グランプリ決勝で花と散った「ゆにばーす」のツッコミ、川瀬名人その人である。

 異変を察したスタジオMC・東野幸治さんが「どうしたんですか?名人さん」と水を向けると、川瀬名人はその姿勢のまま「今も…3回くらい間違えましたね…」と茫然自失のご様子。

 彼の説明によれば、それは噛んだとか詰まったとかにとどまることなく、最も重要であろうオチの振り方まで間違え、相方・はらさんの機転により何とかネタを終えられた状態だったという。

「漫才できんようになってるやん!」とツッコむ今田耕司さんに、「助けて下さい」とすがるはらさん。そのやりとりでもって、何とか“笑える”形で幕引きとなったのだが、放心状態とみられる川瀬名人が着座することはなかった。

 見ていてとても変な空気だったので、通常だと“カット候補”であろう場面。

 しかし23日深夜に私が見た、そのCBCテレビ『本能Z』に関しては、それこそが番組の核心部分だった。と言うのも、中味がほぼ丸ごと「ゆにばーす特集」で、さらに川瀬名人については「M−1決勝最下位までの半年間」を追った密着VTRまであったからだ。

 かく言う私が初めて川瀬名人を見たのも、一昨年の『本能Z』。

「M−1優勝したら芸人辞める」という彼の謎のポリシーに驚き、また独特のシニカルな立ち居振る舞いやツッコミスタイルに、出演の度に笑わせていただいていた。

 今回、番組が彼に敢行した密着取材から浮かび上がったのは、あえて強めの言葉を使えば、M−1に全てを捧げている川瀬名人の“異常性”だった。

 M−1本番で緊張しないようにと、プライベートでも漫才の衣装である上下青のスーツで過ごしていることに始まり、仕事を中座したかと思えば、ライバルたちが出場しているM−1の予選会を見に行く。またM−1の観客たちの先入観に影響するからと基本的にバラエティー番組への出演はNG。『本能Z』に出演するのは、スタジオMCのお一人がM−1の司会者・今田さんであるからだという。

 四六時中、どこにいてもM−1優勝のために過ごす毎日…。

 密着VTRでは、予選を次々勝ち上がり、準決勝も突破と、しだいに決勝が近づいてくるにつれて、その種の素人である私が見ても明らかなほど、川瀬名人は過緊張状態になっていった。

 そして迎えた決勝。

 去年12月の放送をご覧になっていた方はお分かりの通り、肝心の本番でガッチガチに仕上がってしまった川瀬名人。結果、ゆにばーすは最下位の10位に沈んだ。ちなみに相方・はらさんは、『本能Z』の中でこの時の様子について、「ネタの最中に川瀬が目の前で死んだのを見た」と表現されていた。

「参考書がこんなにボロボロになるまで勉強してきたので、大丈夫だと思います」

「緊張してるんですけど、なるべく普段通り出来るといいなと思います」

 受験シーズンの今、テレビでニュースを見ていると、そんな受験生のインタビューを目にする。


■川瀬名人「いや、本当にあんなヤツは優勝できない」

人生は小さなものから大きなものまで、そうした「本番」の繰り返し。ちなみに自分の経験上、例に挙げた受験生のコメントだけを見て言えば、本番でうまく行きやすいのは前者であり、失敗しやすいのは後者である。

 本番に向けて努力することと、本番で力を発揮することは、全く別。

 成功のために、努力は能力と同じくらい大事だが、それのみで本番の結果が決まるなら、ただ目標に向かってがむしゃらに取り組むだけでよい。しかし、そんなことなどないのだ。

 私の考えでは、加えて重要なのが“その時”に自分を信じられる自分であること。

 どれだけ普段から本番を想定していようと、本番がその通りになることは絶対にないし、そうした準備で有益となるのは、ちょっとした慣れや安心感が得られることくらい。適度にやると効果的なものの、このアプローチに本当の解は存在しないため、突き詰めようとすると必ず詰む。

 結果を出すためは、得体の知れない本番に執着して過ごすよりも、それを迎える自分と日々向き合うことの方がラクで建設的。例え人生最大の舞台であろうと、そこに立つ自分が自分だということだけは普段と変わらないからだ。

『本能Z』のスタジオで、自らの密着VTRを見終わった川瀬名人は次のように語っていた。

「いや、本当にあんなヤツは優勝できない…」

 笑顔に照れくささや気恥ずかしさが混じりながらも、その様はどことなくスッキリとされていたようだった。

 川瀬名人自ら「番組専属芸人」と言い切る『本能Z』だが、今回は図らずも彼にとって、年末のM−1優勝に向けた道標の一つとなったに違いない。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:本能Z収録風景(C)CBCテレビ(28日13:27)

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