一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>カレーを届けるため6日間で140キロ踏破を目指す男 マネしたら100分の1で辛かった

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<コラム>カレーを届けるため6日間で140キロ踏破を目指す男 マネしたら100分の1で辛かった
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 試しに我が家からひたすらまっすぐ歩いてみることにした。

 名古屋のCBCテレビの深夜番組『本能Z』で、4日から始まった新たなロケ企画「カラゾン・ドット・コム」の影響である。

 同コーナーは、“配達人”となったお笑い芸人・トラッシュスターの中山真希さんが、名古屋から三重県津市まで片道70キロを歩いて往復。スタジオの今田耕司さんに、地元で知らぬ者はいない“ブラックカレー”を6日以内に届け、その道中でどんな人間ドラマが起こるのかを見届けるという企画だ。

 私が家を出たのは午後2時。玄関の外にあった世界は気温33度だった。

 地下鉄の駅で2駅分くらい行軍したが、そんな暑い中、私のほかに誰も歩いていない。幹線道路から住宅街を抜ける路地に入ってみても、人間ドラマどころか人間がいなかった。これを昼夜問わず140キロ続けて毎週番組のコーナーを作るのは、想像するだけでなかなか痺れる。

 しかし、普段しないことはしてみるもので、思わぬ幸運が待っていた。

 以前に通っていたものの突如閉店してしまったカレーうどんの旨い店と、関連があるに違いない文字を冠したお店が、すぐ先に見えたのだ。朝から何も食べていなかった上に、しんどすぎるため、ここをゴールとする。

 見込みが当たり、久々に再会したお味に舌鼓を打っていると、店のドアがガラッと開いた。

「あの…、0歳児いるんですけど、入れますか…?」

 母親と思しき方の小声。赤ちゃんがいると昨今は入店許可も必要なのかー、なかなか窮屈な世の中になったなーと聞き流して、カレーうどんをほおばり続けた。体がキツいと、視野が狭くなりがちである。

 さて、そんなカレーうどん店発見のきっかけとなった、『本能Z』の「カラゾン・ドット・コム」。11日深夜に第2回が放送されていたのだが、番組では奇跡に近いことが起きていた。

 夜の三重県内をひたすら津市方面へ歩いていたトラッシュスター・中山さん。道路の向こう側の立派な邸宅で開かれているパーティーをうらやましそうに眺めていたところ、「おいで!」と、招かれたのだ。

 参加者によると、そこは社長さん達が家族とともに集うホームパーティー。彼らがお世話になっている税理士の男性を囲む会のようだった。

 テーブルの上には桑名産のハマグリや、桑名牛のステーキなど、極めて豪華な料理の数々が並び、中山さんは皆さんとビールで乾杯した後、それらを極めて美味しそうにむさぼっていた。20キロ以上歩いた後だ。それはそうなる。

 しかも、その会には“メインイベント”まであった。

 やや涼し気なヘアスタイルである税理士さんの「断髪式」だ。何というロケ運の強さであろうか。中山さんはご厚意により、記念すべきバリカンの一刈り目という大役を果たし、二刈り程度バッサリいったところで記念撮影。

 テレビを通じても好青年ぶりがにじみ出る中山さんの打ち解け具合は素晴らしく、さぁここから参加者の皆様の人間ドラマに触れるのだ、と私はテレビに正対した。

「ごちそうさまです!ありがとうございました!!」

 こちらもまさかのバッサリ。突拍子もない退散展開である。


■「カラゾン・ドット・コム」で見届けようとしているのは“人間ドラマ”

これにはスタジオで見守るMC陣も驚いたようで、「せめて税理士さん、スキンヘッドになるまで見せてあげて下さいよ…」と東野幸治さんが漏らすと、ワイプで断髪式後の完成ヘアスタイルのお写真が足されていた。それはそうなる。

「カラゾン・ドット・コム」で見届けようとしているのは“人間ドラマ”だ。

 常人よりも昼ドラにどっぷり浸かっていた自分が関連するワードを挙げるとすれば、『情念』や『苦悩』、『業』といったあたりになる。

 それらを虚構の世界に落とし込み、うねらせて表現する実際のドラマとは違い、『本能Z』はバラエティ番組の枠内で、ロケ先の“リアル”を拾ってドラマが見える形にしていくということを今回の企画で狙っているのであろう。

 だとするならば、今回のホームパーティーで描ける人間ドラマの端緒は、前述した中山さんの様子にではなく、中山さんが乾杯したビールを彼に渡して下さった方だったり、美味しい料理を作っていただいた方だったり、突然やって来た彼に対して自らの頭にバリカンを入れることを許した懐深い税理士さんのほうにあったのではなかろうか。

 一方、同ロケ隊の全行程の100分の1くらいしか歩けなかった運動不足の私だが、その僅かな旅の間に察せられたことがある。

 仮に自分が、いざロケに同行して演出をするとなった場合、歩くのだけでしんどすぎて頭の回転が鈍り、とりあえず目の前の中山さんに起きていることを取り逃さないように追うのだけで精いっぱいとなるだろうということだ。

「街の皆さんからこんな話を聞きだしてみたらどうか」とか、「中山さんにこんなことをしてもらって場を動かしてみたらどうだろう」とかを全く現場で思いつけず、ロケから帰ってきて素材をプレビューして愕然とする、そんな自分がけっこうクリアに見える。

 さらに今回のロケ企画では、6日間でゴールするというスケジュールまであるのだ。

 きっと1日あたりで進まないといけない距離にも縛られているのであろうから、撮れ高やその取捨選択を含めて相当難易度が高い企画に違いない。やはり、私にとってテレビは見ているに限る。


■街に出て、偶然人間ドラマが垣間見えることは確かにある。

そんなことに思いをめぐらせながら、カレーうどんをすすり終わり、お水を飲んで人心地ついた時に、ん?と気づいた。

 隣の席にいるはずの0歳児はおろか、その親御さんである若いご夫婦すら、入店と注文の時以外、一切声も音も発しないのだ。

 チラッと見ると、赤ちゃんが気持ちよさそうにスヤスヤ眠る横で、目を開けたまま寝ているとみられるお父さんと、今にも壁の方に倒れていきそうなギリギリのバランスでカレーうどんをしずしずと口に運ぶお母さん。お店にたどり着くまでの、ご家族が過ごしたであろう数時間が目に浮かんだ。

 街に出て、偶然人間ドラマが垣間見えることは確かにある。

 しかし、それはたいていの場合、目の前で起きていること自体ではなく、その奥にあるものを見ている。

 と考えると、テレビのロケを通じ、番組を見ている人に対してもそれらが伝わるようにするためには、いったい何が必要なのかも見えてくるような気がする。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:トラッシュスター 中山真希さん(13日15:09)

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