一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>280キロを20日で歩く男“月収6万円”…番組の過酷ロケに挑む若手芸人たちはどう生きるか

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<コラム>280キロを20日で歩く男“月収6万円”…番組の過酷ロケに挑む若手芸人たちはどう生きるか
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

「67万円!?」

“名古屋吉本”に所属するお笑いコンビ・トラッシュスターの中山真希さんが、思わず店内で大声をあげていた。19日に名古屋のCBCテレビで放送されていた『本能Z』内のコーナー「辛ゾンドットコム」での一幕である。

 同コーナーでは現在、愛知県内に住む視聴者の依頼を受けた中山さんが、福井県鯖江市で販売されている「マンゴーの王様プリン」を名古屋から歩いて買いに行き、そのまま歩いて届けに行くという果てしない旅が進行中。

 67万円もするというのは、鯖江市が世界的な生産地であるメガネ。その店にある最高級品ということで、確かに驚くべき値段ではある。

 しかし、テレビを見ていた私はその直後、「どのくらい仕事を頑張ったら買えるか」とスタッフから問われた中山さんが、事も無げにおっしゃっていた次の言葉の方に、声を上げそうなほど驚いた。

「月6万円ぐらいなんで、今給料が。途方もないっすね」

 吉本、恐るべしである。

 人の脳というのは不思議なつくりになっているもので、どこかの彼方に吹っ飛んでいた記憶が、その驚きによって瞬時に呼び起こされた。

 1997年の冬。当時大学生だった私は、名古屋・新栄エリアのライブハウスでドラムを叩いていた。そこは奇しくも、在名テレビ局の就職試験において唯一私を書類選考で落とした、見る目の無いCBCのお膝元でもある。

 まだ立ち上げて3年くらいのアマチュアのジャズバンドで、実績もほぼゼロ。

 なかなか練習の成果を披露するステージもなく、とにかく出番に飢えていた我々は、他の実力あるバンドのライブに“間借り”する形が多かった。その日もそんな感じでありがたく演奏させていただいていた。

 シンバルとシンバルの間から見えるお客さんの反応は良く、上々の出来。プレイヤーとして自信がついた忘れられぬ夜となった。が、残っている当夜の記憶は、その後起きたことが大半を占める。

 私たちがステージで撤収を進めているさなか、ライブハウスのオーナーが、年季の入ったワインクーラーを取り出すと、観客の皆様にこう言ってくださった。

「このバンド、まだ楽器とか機材とか十分整ってないんだ。応援したいと思った人はコレにカンパしてやって」

 そのワインクーラーはライブハウス中をぐるぐると巡った。

 全てのバンドのライブが終了して、最後のお客さんが帰ったころ、硬貨どころか紙幣がワサワサした状態となったソレを、オーナーがニコニコして私たちのところに届けてくれた。想定外のご厚意に、メンバー一同胸が熱くなった。

 するとオーナーは、一見して10万円は入っている紙幣の山にやおら手を突っ込み、1万円札を1枚取り出して「はい、コレ」と我々に渡すと鼻歌まじりでカウンターの奥へと消えていった。


■確かこの企画が始まった当初、「配達料が余った場合、残りは彼の収入になる」という説明が

 表現の場が欲しく、より多くの人に楽しんでもらいたい若者側と、客を入れられるライブハウスや劇場などを活用して、より商売を繁盛させたい興行側…。

 当時、ドラムで食べていこうなどと思う実力も気概もなかった私でも、プロのエンターテインメント業界における、その種のパワーバランスを肌で感じた瞬間だった。

 今や、ドラムのスツールではなく、ゲーミングチェアでまったりしている私の前のテレビには、そんな厳しい世界で生きるトラッシュスターの中山さんが映っている。名古屋=鯖江の往復280キロを20日間かけて歩いて往復する過酷なロケに挑んでいても、1カ月のギャラは6万円なのである。

 しかも彼はその日、鯖江では「マンゴーの王様プリン」をゲットするだけでよいにもかかわらず、それに加え、プリンを待っている愛知の幼い姉妹のために、自腹で別のお土産まで買っていた。かわいらしいお揃いのレッサーパンダのマスコットを手に、歩みを進める中山さん。もはや敬意しかない。

 ちなみにこのお金の出所は、ロケ中に中山さんが歩いた歩数に応じて番組から彼に支払われる「配達料」。5歩につき1円である。旅の道中の食費や宿泊料金、防寒着に至るまでを彼はそこから賄っている。

 確かこの企画が始まった当初、「配達料が余った場合、残りは彼の収入になる」という説明があった。

 月収が6万円位だと、なるべく出費を抑え、もらった配達料を少しでも手元に残しておきたいと考えるのが人の性。しかし、番組中の中山さんは基本、あるお金は惜しみなく使うスタイルで、ご飯もわりと豪華なメニューを選んでいる。

 私はハッとした。

 もしや…、お金が余ってしまったら……。

 ライブハウスで、ワインクーラーに入った紙幣をワサワサさせながら遠ざかっていくオーナー。彼の背中が頭に浮かんで、震えた。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:トラッシュスター 中山真希さん(C)CBCテレビ(24日16:52)

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