一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>「最強の節約術は加齢である」…お金ない人生前半に欲しい物が多く、ある後半には少ないの真理

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<コラム>「最強の節約術は加齢である」…お金ない人生前半に欲しい物が多く、ある後半には少ないの真理
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 彼は所持金7584円でも、1万4155円のランニングシューズが欲しかった。なぜなら、欲しいからである。

 その男性の名は、お笑いコンビ・トラッシュスターの中山真希さん(26)。名古屋にあるCBCテレビの深夜番組『本能Z』で、名古屋=福井・鯖江間の往復280キロを、文明の利器を使わずにひたすら歩く企画に挑戦中だ。

 彼は以前にも名古屋=三重・津の往復140キロと、名古屋=静岡・浜松の同186キロを踏破しているが、ずっと同じスニーカーで歩いていたらしく、今回福井に着いた時点で、帰りの名古屋まで持たないほどボロボロになってしまっていたのだ。

 テレビに大きく映し出されたアッパー部分には穴が空いていて、地面と接するソール部分は擦れに擦れてクッション材が露わに。その“後任”を探すために入った敦賀市内のスポーツ用品店で、彼は冒頭のランニングシューズに一目惚れしてしまったようだった。

 鮮やかな黄色が目を引く、ある一流メーカーの新商品。いかにもカッコいい。ほかにも所持金の7000円台で買えるものがあるはずなのだが、「ここでケチったら後悔する」などと言っていて、もはや彼の目には倍の値段するシューズしか見えていない。

 その若さみなぎる物欲に、私は大変共感を覚えた。まるで一昔前の自分を見るようだったからである。

 私は「おこづかい」は大好きだが「おこづかいちょう」は大嫌いな子供だった。

 余裕のある生活とは程遠い家庭に育った幼少の頃から、あるお金を無計画に使ってしまうタイプで、お年玉など1月後半となった今の時期にはもうない。

 親も「おこづかい」が月に1度の支給だと危ういと考えたのか、週ごとの分割になった時期もあったものの、大勢に変化なし。

 続いて、すぐにお金が無くなってしまう状況の把握のため、「おこづかいちょう」の提出が義務化されたのだが、「つかいみち」の欄には堂々と「不明」と書いて出していた。親は将来をひどく悲観したに違いない。

 その後も「収入―支出=貯蓄」という、常に右辺が0となる数式のまま成長していった私。

 大学を出て地元・名古屋の会社に就職すると、銀行がお金を貸してくれるようになり、すぐ右辺はマイナスに突入した。

 入社記念でオープンカーを買い、30歳記念で居住用マンションを購入。無論どちらも8割ローンであり、がんじがらめの楽しいサラリーマン生活であった。


■気比の松原をボロボロの靴でただ行ったり来たり

 改めて字にしてみると途轍もなくダメ人間だが、その車は結局12年乗り続けて元をとり、マンションも40歳記念で会社を辞めた時に売却できて、課税対象に。結果として、私の場合は子供の頃に「おこづかいちょう」をつけられなくても、人生において破産することはなかった。

 残りの人生がまだ幾分ありそうにもかかわらず、そう言い切れるのには理由がある。40代に入ったら、欲しいものがとんと無くなってしまったのだ。

 具体的に言えば、ここ1年で“大きな買い物”は、仕事場で今まさに座っている椅子と、すぐ右側にある加湿器だけ。念のため自宅をうろうろしてみたが、やはり靴の一足も買っていなかった。

 そう、これが加齢である。

『本能Z』のトラッシュスター中山さんに話を戻すと、彼の番組での収入源は5歩につき1円支給される配達料のみ。彼は名古屋まで履いて歩いていく新しいシューズを買うために、気比の松原をボロボロの靴でただ行ったり来たりして歩数を稼いでいた。

 その間も、番組で設定したゴールの名古屋までのタイムリミットはどんどん迫っているので、まさに辞書の用例にしてもいいレベルの本末転倒。だが逆に言えば、それほどかの黄色のランニングシューズが彼にとって眩しく映っていたのだろう。

 どうやら、私が中山さんに対して覚えた共感には、人生で初めて感じた“若さへの羨望”も混じっているようだった。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:トラッシュスター 中山真希さん(C)CBCテレビ(22日10:42)

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