一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>今田、フット後藤が勇気あるスタイル称えた漫才コンビ『キュウ』 音と時間操る“話芸と間芸”

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<コラム>今田、フット後藤が勇気あるスタイル称えた漫才コンビ『キュウ』 音と時間操る“話芸と間芸”
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 自分の経験では、引き算や割り算の感覚を持って業務を遂行している人には仕事のできる人が多く、足し算や掛け算に走りがちな人はそうでもない場合が多い。

 それは、端的に言えば「要点が見えているか、いないか」の差だ。

 これまでは結果につながっていればさほど気にされなかったが、今や働き方改革の過渡期。自らの時間外労働や、部下・同僚らを巻き込んだ力技で課題を解決してきた“足し算・掛け算派”の皆様にとっては、働き方改悪に感じられているのかもしれない。

「勇気いるなぁ、ツッコミ」

「勇気いりますね〜!」

 9日深夜に名古屋のCBCテレビで放送されていた『本能Z』。ある若手漫才コンビのネタを見終わった直後、スタジオの今田耕司さんとフットボールアワー後藤さんが、それぞれ感嘆の声を上げていた。

 そんなMC陣に挟まれるようにして着座したのは、コンビを組んで5年だというキュウさん。初見だったのだが、独特のテンポと絶妙な間に驚かされた。

 私の筆力では到底描写し尽くせないので、ご存じないという方には、まず「キュウ 芸人」で動画検索をお勧めする。ちなみにセカンドワードを入れないと、『宇宙戦隊キュウレンジャー』が大量に押し寄せてくるので注意されたい。

 キュウさんのネタはとにかくゆったりと進み、しかも最小限の言葉しか口にしない。

 同番組では他にも3組の漫才コンビが登場してそれぞれ3分ほどのネタを放送。最後のキュウさんだけやや長く4分くらいだったのだが、しゃべっていたことをそのまま文字にしても、他コンビの10分の1程度の量にしかならないレベルだった。

 今田さんと後藤さんが「勇気」とおっしゃっていたのは、キュウのツッコミ担当・清水さんへの賛辞。相方・ぴろさんの訥々たる口調でのボケに対し、もしラジオだったら放送上危ないくらいの間をあけ、ねっとりとツッコミ続けたのである。

 日常においても、“間”というのは不安なもの。

 私で言うと、例えば食事会の時、開始から1時間半くらい経過したあたりで3秒無言になろうものなら、つい「何かしゃべらなくては…」と焦ってしまうし、お仕事で最もデリケートな局面である料金交渉の場で、私からの提案後に先方が押し黙ってしまうと、次に来るかもしれない値下げ圧力に対して、思わず耐ショック体勢をとってしまう。

 にもかかわらずキュウさんは、とりわけテンポが重要だとされる漫才の最中に、あえて間をとるというスタイルで戦っているのだ。

 番組によれば、芸において全ての方針を決定しているのは、ネタ作りを担当しているぴろさん。話す言葉のテンポや間だけでなく、声の大小から高低差まで、緻密に作り込んでいるのだという。この演出を提案されたツッコミの清水さんは「最初心臓止まるかと思った」と吐露していた。

 お笑い芸人さんのお仕事は、私の理解ではネタを披露して客を笑わせること。

 通常のアプローチだと、舞台や番組での限られた時間の中で、どれだけ多くの笑いを仕掛けられるかという発想になりがち。だが、キュウさんは逆にネタの要点だけ残し、不必要と思われる要素を全て削ぎ落とした上で、生み出した時間を存分に使って、“様”で勝負しているのである。

 今田さんらがネタ後に開口一番おっしゃっていた「勇気」は、コンビとしての自信や互いへの信頼がなければなかなか出せないはず。お二人のさらなるご活躍を願うばかりだ。

 翻って考えると、自分の仕事は彼らほどうまくムダを削ぎ落とせているだろうか、分かりやすくまとめられているだろうか。また何よりも、要点は物事の芯を捉えているだろうか…。

 ついつい不安から、“足し算・掛け算”に逃げたくなってしまう私にとって、キュウさんのネタを新年早々見ることができたのは僥倖と言うほかない。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:本能Z収録風景(C)CBCテレビ(14日15:13)

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