一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>あの衝撃再び…昭和のファミコン名作に登場した「ヤス」 30余年後「平成のヤス」が現れた

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<コラム>あの衝撃再び…昭和のファミコン名作に登場した「ヤス」 30余年後「平成のヤス」が現れた
『ポートピア連続殺人事件』というゲームをご存じだろうか。1980年代にエニックスから発売されたそのファミコン版を、当時私は必死になってプレーしていた。

 タイトル通りの殺人事件をプレイヤーが刑事として解決していくゲームで、その時代としては画期的な推理アドベンチャーだったのだが、そこには小学生である自分のことを「ボス」と呼んでくる部下の刑事がいた。

 そう、ヤスだ。

 これから遊ぶ方がいらっしゃるかもしれないので慎重に表現すれば、私はこのヤスという男に多くを学んだ。

 ストーリー上では、理性と本能とを行ったり来たりしながら生きる人間の、情念の深さや儚さを。また構成上では、話の展開スピードに合わせてプレイヤーの推理を確信へと変えていく、彼を使った絶妙なネタのばらし具合や話のひっくり返し方をだ。

 強烈なインパクトを受けたヤスとの出会いから30余年。再び、私の眼前に衝撃的な“ヤス”が現れた。

 お笑いコンビ・ナイチンゲールダンスのヤスさんである。

 1日深夜に名古屋のCBCテレビで放送されていた『本能Z』が初見だったのだが、何というか獣のような目をしていて、眼光のギラつき具合がすごい。彼がゲームの方のヤスだったら、ボスとしては突き上げを食らって大変胃が痛いだろう。

 大学生M−1グランプリなる大会で優勝し、その後入った東京にある吉本の養成所も首席で卒業。プロデビューわずか1年にもかかわらず、ネタの完成度の高さはもちろん、対照的に物腰柔らかな相方・中野なかるてぃんさんを交えたフリートークも、それ自体ネタなのかと思うくらい面白い。

 ヤスさんが特徴的なのは、自らのお笑いの実力を本人が堂々と認めている点だ。独特のギラつきはそのあたりの自信から醸されてくるものとみられる。

 番組中、そんな彼のキャラクター、というか人間性そのものが表れていたやりとりがあった。

 ヤスさんが芸人の先輩に対して挨拶をしないことがある、という話が出た時、彼はその理由について、こう説明した。

「今田さんとか東野さんとかだったらちゃんと挨拶しますよ。覚えてもらうことによって、有益でしかないから。でも劇場でよう知らんヤツがよう知らんヤツに挨拶して、何も生まれてね―じゃねえかよって。スベってる先輩に挨拶するの意味が分からない」

 昭和の職人のようなの尖り具合と平成生まれの合理的な考え方の、絶妙なブレンドである。


■才能のある若者が、そうでもない年長者に対して臆することなく仕事をしている姿勢は大変好感が持てる

 ヤスさんはまた、「お客さんが大好きで、本当に楽しませたい」とも語っており、先輩・後輩のしきたりなどお客さんには関係ないし、お笑い芸人はそこを見せる仕事ではないというスタンスなのだ。プロフェッショナルではある。

 私がヤスさんらと同じ社会人2年目の頃は「若い頃の苦労は買ってでもしろ」の言葉通り、社内のしきたりのもと、日々下積みを重ねていた。

 独特の風習や首をかしげたくなるローカルルールもないではなかったが、会社名に個人の実績や能力が全く追いついていない中で、自己主張する気概も自信もない。心身ともにこたえるものの、目上の方に従っておくほうが、実は楽だったのだ。

 そうした旧来型の労働文化では、ヤスさんのような方は激しく異端である。

 しかも彼がいる世界は、“Theタテ社会”の芸能界。例え仕事ができようと、いや、むしろできるからこそ、他の芸人さんや特に芸歴の近い先輩から生意気だとか礼儀知らずだとされるに違いない。その苦情が全て集中するシステムになっている相方・中野さんのご苦労はいかばかりであろうか。

 スタジオの東野さんら大先輩芸人の皆様も口を揃えていたように、ヤスさんよりも20歳くらい年上の私としては、プロとして才能のある若者が、そうでもない年長者に対して臆することなく仕事をしている姿勢は大変好感が持てる。

 内外に無用に敵を増やしているのではと詮索もしたが、番組中のヤスさんによれば、ファンには同世代の方々や大学生らが多いもよう。

 彼が発する言葉の度合いはキツイものの、いわゆる炎上狙いの演出だったり、無理にかぶいたりしているわけでない。単に素の想いがそのまま出ているだけだからか、なかなか思ったことを口に出来ずにわだかまりを抱えて生きる皆さんの、一定のカタルシスになっているようだった。

「あかんわ…ハートを掴まれそうになってる…」

 番組でのトークの終盤、スタジオの今田さんが突然右手を胸に当て、とても苦しそうな表情を見せた。

 犯人はヤスさんである。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)
画像:本能Z収録風景(C)CBCテレビ(3日20:01)

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