一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>リポートスキル持ちのマテンロウ・アントニー ハマっていた岐阜の“村”をめぐる『アハ体験』

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<コラム>リポートスキル持ちのマテンロウ・アントニー ハマっていた岐阜の“村”をめぐる『アハ体験』
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 テレビの現場では『盗む』ことがある。

 もちろん窃盗とかのアウトな話ではなく、撮影上の絵作りのために、被写体である人や物の位置を、本来の場所からそれと分からぬように『ズラす』ことをそう言うのだ。

 主にドラマの撮影等で行われるこの技法は、映像表現の手段のみを指すのだが、番組作りの中では、もう少し広い意味で、言葉の表現や設定、狙いなどにおいても、同じ類のことが演出上よく行われている。

 例えば、言葉でいうと、当コラムで触れている名古屋のCBCテレビが放送中の深夜番組『本能Z』は、公式サイトによれば“オモシロ人材発掘番組”。芸人さんにモデルさん、プロ雀士の方まで様々なジャンルの原石とされる方々が登場するので、まさに“発掘”ではある。

 一方で、基本的に先輩出演者が事務所の後輩を紹介するというカタチであるため、テレビ局にとって大切な取引先である事務所側から見れば、実は自社のオモシロ人材の“売り込み”番組でもあると言えよう。視聴者側を含めて皆がハッピーな表現のズラし方である。

 その『本能Z』の15日放送分を見ていたら、新たに始まったロケ企画のタイトルが上手い表現になっていた。

「村発掘」だ。

 字面通り、本当に未知の村が日本国内から見つかったら大変なことだが、無論そういうことでない。芸人さんがテレビの来たことない“村”をくまなく歩き、その良さを“発掘”する企画なのだそうだ。

 今回、発掘される対象となるのは、岐阜県の旧谷汲村。かつて他局の岐阜駐在記者として自分が担当していたエリアだ。そのため「谷汲でテレビ初取材のところなどあるものか!」くらい言いたいところ。で、取材したところを思い出してみると、勇壮かつ華やかな谷汲踊り、息を呑んでずっと黙り込んでしまうほど美しい華厳寺や横蔵寺の紅葉………多分、以上。反省しかない。

「芸人で何もないところで何か起こそうとするのって一番難しいなぁ…」

 旧谷汲村の田んぼの真ん中で、ロケ開始早々ボヤいていたのは、お笑いコンビ・マテンロウのアントニーさん。同番組で中継リポーターとして出演陣にハマっている彼らしく、その一言は企画の芯とみられる点をズバリ突いていた。

 アントニーさんには、何とか“村”を盛り上げてほしいという観光協会からの依頼を受け、何もないように見える地域の未発見の魅力を発掘するというあまりにも酷なミッションが与えられている。

 しかし、番組スタッフもその高すぎる難易度はきっと百も承知。彼らが今回の企画で狙っているのは「“村”の良さを発掘する」という設定のもと、その無理筋によってどんどん追い込まれていくアントニーさんを視聴者に楽しんでもらうということに違いない。


■旧谷汲村の魅力を発掘するために奮闘!

案の定、何もないことに困り果てたアントニーさん。

 通りがかった方から聞いた「谷汲で一番面白い人」という、それだけで危うさが感じられる方に、藁にもすがる思いで会いに行くことを選択。結果、二重の意味で思い切り藁であった。

 それでも、アントニーさんは会う人会う人みな彼のことを知っているという“谷汲ハマり”を自信に変えて、果敢に行軍。どう見てもただの田園風景を「インスタ映えだ」と言い張ってみたり、地元の方に対してスタッフが決めた過酷なロケスタイルへの愚痴を漏らすことでリアル感を高めたりして、数々のシーンを作り出すことに成功していた。

 結局、何もないと目されていた旧谷汲村でのロケ企画は、14キロ歩いて4つの名所を発掘し、1日目が終了して2日目は次週放送に。気に障る引き延ばし感もなく、まさかの週またぎとなった。

 以上、言葉の表現、目的設定や狙いなどから感じられた「ズラし方」を軸に、番組を振り返ってみた。

 が、残念なことにやり過ぎの部分も見られた。

 アントニーさんが途方に暮れながら歩き倒していたその地は、正確な表現をすると岐阜県揖斐川町谷汲。かつてあった谷汲村が平成の市町村合併で揖斐川町などと一緒になったのだ。

 そのため、主に企画の冒頭では正しい「旧谷汲村」と表記されていたのだが、時間が進むにつれ、少しずつ巧妙なズラしが行われていく。何度も登場した“村内”地図CGで、「旧」の文字がしれっと無くなると、VTR最後にあった次週予告では堂々と大きな文字で「谷汲村」とスーパーされるに至った。アハ体験か。

 企画を「村発掘」と題しているため、“村感”を無用に損ないたくないという意図は悲しいほどよく分かるし、その意味で、番組中に「揖斐川町」という言葉がただの一度も出てこなかったことまでは許容範囲だと思われる。

 しかし、さすがに現存しない自治体の表記とまでなると「ズラし」では済まされず、アウトだろう。


画像:マテンロウのアントニーさん(C)CBCテレビ
平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)(21日13:20)

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