一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>作為は“隠し味”くらいが丁度良い…テレビ番組で供される『感動定食』 箸が進みづらいワケ

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<コラム>作為は“隠し味”くらいが丁度良い…テレビ番組で供される『感動定食』 箸が進みづらいワケ
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

 異変は去年12月に始まっていた。

 名古屋のCBCテレビが深夜に放送しているバラエティー番組『本能Z』。その中のコーナー「辛ゾンドットコム」の話だ。

 同コーナーでは現在、お笑いコンビ「トラッシュスター」の中山真希さんが、名古屋から福井県鯖江市まで、スマホなどの文明の利器を使わず歩いて行って「マンゴーの王様プリン」を買い、愛知県内に住む視聴者家族へ届けに行くという過酷な旅に挑戦中。

 今回が第3弾で、距離は往復280キロ。制限日数は20日間という設定だ。


■急にまったりしだす企画

 中山さんは厳しい山道も踏破し、9日目に鯖江に到着して目的のプリンをゲット。この企画では目的地までの道が分からないままスタートする往路よりも、勝手が分かっている復路の方がトラブルやミスが少ない。疲労によるスローダウンを加味しても、残り11日あれば“ゴール”は余裕……かと思われた。

 だが、その12月12日放送分を終えると同企画は急激にまったりしだす。

 プリンを買った後に寄ってみた動物園が定休日で、そこにいるレッサーパンダを翌日見るため鯖江に一泊。

 その後一旦、名古屋に向かおうとするのだが、中山さんが靴を新調したいということで、再び街へ逆戻り。彼の旅の原資は全て、歩数に応じて番組から支給される“配達料”なので、靴代を稼ぐため彼はただぐるぐると街中を歩き、また一泊。

 翌日、真新しい靴で滋賀県に入っても、「遠回りでも宿重視」として琵琶湖の北から反対方向の京都方面へかなり歩いた先で泊まっていた。1月30日の放送分は、そこからようやく旅の最短コースである名古屋方面へ続く道に戻ってきたところまでだった。

 うすうす感じていたが、蓋然性が高まったため、ついに言う。

「辛ゾンドットコム」、中山さんが制限時間内に余裕でゴール出来てしまうっぽいため、復路からしれっとゆっくり進行させてはいないか。

 テレビのバラエティー番組は見世物として面白いのが第一。なので視聴者にウソをつかない限り、面白さの追求のため、時間管理など出来ることを番組側がやるのが適切だと思う。

 ただ、どうせならそれを視聴者側に気付かせないでやった方が、両者ともに得なんじゃないだろうか。

 長時間・長期間にわたる“過酷企画”は様々な趣向で長らくテレビの世界を彩っているが、番組上最も盛り上がる制限時間ギリギリでクリアしたり、奇跡的な幸運で課題を達成したりするということがよく起こる。

 それら全てが企画挑戦者の頑張りのみでもたらされていると考えるのは、いささか不自然。でも、その不自然さを様として自然に見せられているからこそ、視聴者はついうっかり感動を呼び起こされてしまうのだ。


■2つの誤算

 私が『本能Z』関係者に対して何の裏も取らず勝手に推測すれば、この「過酷旅意外と早く終わっちゃいそう問題」が起きたのは“2つの誤算”からだと思う。

 1つ目は想定以上に道中で物事が起こらないこと、2つ目は中山さんがシリーズを重ねるごとに健脚になっているということである。

 30日放送分はまさにその2つのコラボとも言える回。朝から歩き、昼ご飯を食べ、午後は鮒寿司店にぶらりと寄ってお茶漬けを食べさせてもらい、その後遠回りを強いられながらまた歩き、夜ご飯を食べ、宿を探し当てて終了。番組によれば1日で22キロも歩けてしまった。

 これで残る距離は90キロ、日数は6日。割り算をして今回歩いた距離と比べれば、まだまだ余裕のゴールとなるであろうことは明白だ。

「ひたすら歩くと、どんな人間ドラマが起こるのか」

 同コーナーでは毎回冒頭にそんなナレーションが入る。この前段部分を“手段”として、後段の“目的”を果たすというのが、番組側が狙っている面白さなのだろう。

 一方で、その主人公たる中山さんには「往復280キロを20日間以内に踏破し、愛知で待っている親子に福井の『マンゴーの王様プリン』を届ける」という使命がある。

 当然、彼にとっての目的はその使命を果たすこと。ところが、これは番組側からすれば手段であって目的ではないため、「辛ゾンドットコム」は、この“ねじれ”が常に付きまとう構造となっているのだ。


■“ねじれ”の弊害

 それによって、例えば彼が観光をしたり地元の方と触れ合ったりして、番組が「人間ドラマ」の方に振れると、その様は「寄り道」や「道草」にも見えてくる。“ねじれ”の弊害だ。

「辛ゾンドットコム、面白いなぁ」と私が思う点は、懸命に歩きながらも、つい嫌がったりボヤいたりしてしまう、中山さん本人の人間ドラマ。

 その前提には「必ず制限時間内に、プリンを家族に届けるのだ」という彼の真面目さ、ひたむきさがある。だからこそ彼は健脚ぶりを発揮し、番組側の事前予想を超えるスピードで旅を進めてきたに違いない。

 しかし使命の根幹「制限時間」に帳尻を合わせるかのごとく、旅がスロー進行となったように見えると、そんな面白さや感動の前提が失われてしまう。こうして迎えるラストに番組側が見せたい何が待っているのだろうか。

 延々、『本能Z』を毎週楽しみにしている立場から、コーナー「辛ゾンドットコム」の現状を憂いてきたが、全てが私の勘違いで、取り越し苦労となることを望んでいる。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:トラッシュスター 中山真希さん(C)CBCテレビ(7日13:24)

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