一五一会

名古屋のライバル局出身の平岡敏治氏(現ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)が、CBCの制作番組を見て思ったことを自由に書き、約20年前の採用試験において彼を書類選考で落としたCBCに対して、ある種の御礼をするコラムである。

<コラム>“テレビ離れ”か、それとも“視聴者離れ”か…平成の終わりに見る信頼関係の『作用と反作用』

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<コラム>“テレビ離れ”か、それとも“視聴者離れ”か…平成の終わりに見る信頼関係の『作用と反作用』
【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

「九仞の功を一簣に虧く」

 高校3年の秋、いつもより明らかにクラス全体のテンションが低い朝のホームルーム。担任の男性教師は、かつての『3年B組』のあの先生のように、黒板に無言でそう書いた。非常に難しい字だ。事前に調べたに違いない。

 それこそ一気に書いてクルリとこちらを向くと、今度は最近の『3年A組』のあの先生のように、いつになく声を張り上げた。

「いいか、『目指していた事まであと少しというところで油断して結果が損なわれてしまう』っていう意味だ!よく覚えておくように」

 その前夜、遠い中東で日本サッカー界にとっての重大事案『ドーハの悲劇』が起きた。

 私は彼の言いつけを守り、日本の選手たちが膝から崩れ落ちるあの映像とセットでよく覚えているし、20年以上経った今でも何かにつけてこうして思い出す。


■見た目に明らかな異変

 今回の“何か”は名古屋のCBCテレビが深夜に放送しているバラエティー番組『本能Z』内のコーナー「辛ゾンドットコム」にあった。

 同コーナーは、名古屋吉本のお笑いコンビ「トラッシュスター」の中山真希さんが今挑んでいる過酷企画。愛知に住む視聴者家族の依頼で、文明の利器を使わずに名古屋のCBCテレビから福井県鯖江市まで「マンゴーの王様プリン」を歩いて買いに行き、家族のもとへ届けるというものだ。

 彼は雨が降ろうが、寒かろうがひたすら歩き続けねばならないし、実際にそうしてきた。

 何と言っても、道中で靴底がすり減り過ぎて穴まであいてしまったスニーカーが、旅の過酷さをシンプルに物語っている。

 20日以内に往復280キロの踏破が課せられている気の毒な中山さん。彼を見かねたのか、行く先々では、割安でご飯を食べさせてくれる飲食店や、家に布団まで用意して泊めてくれるご夫婦など、優しさあふれる人々との出会いもあった。

 13日の放送は、そんな旅もついにクライマックスへと差し掛かった15日目の朝、ゴールまで72キロの地点から始まった。

 ……が、中山さんの見た目に明らかな異変。

 最近、独り言がとみに増えた私は、迷わずテレビの中山さんに突っ込んだ。

「髪切った?」

 確か前週放送の14日目は、滋賀県長浜市内の飲食店で夜ご飯の鯖そうめんを食べ、そこで終了。

 しかし、続く今回の15日目冒頭、「朝9時」という字幕スーパーとともに映し出された中山さんは、“前夜”まで確かにもっと伸びていたトレードマークの金髪が、サッパリと整えられていたのである。

 察するに「辛ゾンドットコム」のロケが何らかの都合で、前回放送した14日目の夜でいったん中断。幾日か経過し再開した今回のロケまでの間に、中山さんが美容院にでも行かれたのだろう。ただ最後まで特段説明がなかったので、事実関係は不明だ。


■無意識の信頼関係

 長期間にわたるロケだし、そういうこともあるよなぁと理解しつつも、演出等に関して世知辛い昨今、しれっと進めずちゃんと言えばいいのに…と思わないではなかった。毎週見てきた立場としては、ちょっと裏切られたような感覚すらある。

 人はたいてい、相手との間に無意識の信頼関係を築きながら生きている。

 今回の『本能Z』の放送翌日に、私が行った書店で例えると、店主は私が本を買いに来た前提で迎え入れてくれたはずだし、私のほうも興味の沸く本を店主が並べてくれているだろうと思って訪れた。

 ちなみに、買った本の出版社を信じて、14ページの次にあるのが15ページだと思って読むのも当たり前である。

 程度や対象の差こそあれコミュニケーションとは基本そういうものだが、その信頼関係が崩れた時、お互いの距離はそれまでよりも遠く感じられるようになるのではなかろうか。

「辛ゾンドットコム」の名古屋=鯖江間・往復280キロも間もなくフィナーレ。

 旅の積み重ねをずっと楽しんできた視聴者の満足度を「一簣に虧く」ことがないとよいなと思う。


平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

画像:トラッシュスター 中山真希さん(C)CBCテレビ(18日16:26)

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