2017年4月2日放送

教えて!ドクター

(名古屋大学 医学部 老年内科 鈴木 裕介 先生)

★4月のテーマ「認知症」
 患者さんやご家族が認知症だと最初に気付く症状には、ある程度共通したものがあります。例えば「何度も同じ事を聞き返す」あるいは「家の中でも探し物がやたらと多くなる」あるいは「元々興味のあった事や積極的にやっていた事への関心が低くなり意欲が低下する」また人によっては「普段の日常会話においてちょっと怒りっぽくなる」というような症状で気がつく場合もございます。認知症の診断の基準は全世界的に共通していまして、中核的な症状としては「物が覚えにくいという記憶の障害」「時間や場所の見当がつかなくなる」あるいは「普段の生活動作で不具合が生じる」といったことです。ただ、それだけでは認知症と決め付けられません。認知症と診断するかどうかは、そういった様々な障害が本人の実際の生活に支障をきたしているかどうかがポイントになります。その人その人の送っている生活は色々違います。生活環境によって判断に幅がでてきます。例えば一人暮らしの方にとっては不便であっても、お嫁さんや若い人が何でもやってくれているご高齢の方にとっては生活機能における障害がはっきりしない場合があります。ですからその人の生活環境によりどうしても判断に幅がでてくるというのが診断基準における問題点と言えます。5年以上前に全国のいくつかの自治体で正しい診断基準に基づいて認知症の方がどれくらいいるのかを調べた調査結果によりますと、65歳以上の方の6人から7人に1人が診断基準を満たす認知症であるということがわかっております。これは我々が想像したより高い数字でした。ですから皆さんが考えている以上に認知症というのはごくありふれた病気だということを認識していただきたいと思います。

スマイルリポート~地域の医療スタッフ探訪

渡邉雄太さん (医療法人瑞心会 渡辺病院 地域医療連携室 医療ソーシャルワーカー)

<力を入れて取り組んでいる事>
 私が働いている知多郡美浜町では人口減少や高齢化が著しく進んでいます。高齢化率が高まるにつれ「一人暮らしの高齢者」や「閉じこもり」「孤独死」そして「認知症高齢者」の増加が見込まれ、これから在宅医療に寄り添っていかなければならない状況です。まず当院では4月より在宅医療の体制強化をはかるため、医師を始め各職種が在宅医療についての知識や連携強化、顔なじみの関係をはかれるような在宅医療セミナーの開始等、在宅療養支援病院として訪問診療や訪問看護、訪問リハビリ等の在宅医療体制の整備をはかっています。
<心に残るエピソード>
 医療や介護にかかわっている者、一個人として、祖父母の在宅医療、在宅介護に母親と共に孫として助け合った体験があります。祖父は急に食事が進まなくなり、胃ろう(経管栄養)を作りましたが、訪問歯科や訪問看護、訪問リハビリ、ケアマネージャーの方々、そして娘(母親)の介護により経口摂取もできるようになりました。徐々に寝たきりの状態から車椅子そして杖歩行もできそうなレベルに回復しましたが、残念ながら脳梗塞にて亡くなりました。同じ時期に祖母は認知症が進行し、現在当院グループのユニットケアの特養で生活しています。母親には兄弟がいませんので祖父母の介護にひたすら向かっていく姿に対し、不安も覚え、相談したり助け合ったりしました。このことからクライエント(ここでいう母親や家族)がどのように思って今生活しているのか、在宅医療、在宅介護の現場では何が起こりうるのかという事をしみじみ痛感しました。それらの目の前で起きた経験が、今の仕事の専門性を高めてくれ、そして協力してくれた職場の皆さんの専門性を垣間見る事ができたのは本当に良い経験でした。
<現場の課題>
 様々な社会情勢が目まぐるしく変わりゆく医療介護ですが、一層柔軟なソーシャルワークや多職種とのチームレスな連携力、迅速力を備えているか等、技術や専門性の真価が問われていくと感じます。しかし同時に医療や福祉に携わる専門職は想定もしなかった事や失敗を多く経験しプロとしての意識を維持していく事の難しさと闘う力を備えていなければならないと思います。