2017年3月26日放送

教えて!ドクター

(名古屋大学大学院医学系研究科 地域医療教育学寄附講座 講師 岡崎 研太郎 先生)

★3月のテーマ「糖尿病」
<糖尿病の治療>
 患者さんが自分の意識で前向きに「糖尿病を治すんだ、コントロールするんだ」という気持ちを維持するためには、主治医の先生や看護師さん、栄養士さんなどの医療スタッフと患者さんとの関係が良好である事が一番大事だと思います。病院や診療所に行くたびに、責められたり怒られたりしている感じを患者さんが抱くと、どうしても足が遠のいてしまって治療中断につながります。治療中断の何が問題かというと、病院やクリニックに行かなくなった人では、糖尿病の調子が悪くなって失明したり、腎臓が悪くなって人工透析になったりするというリスクが格段に跳ね上がるということです。これは、はっきりとデータで示されているので、継続して通院することが一番大事になってくると思います。
 また特に患者さんの奥様やご主人などご家族に多いのですが、熱心さのあまり「あなた糖尿病なのに、そのみかん食べていいの?」とか「そんなに血糖値が高いなんて今日は全然歩かなかったの?」とか「ちゃんと薬飲んでる?」とか責めるような感じでおっしゃる方がいます。そうすると患者さんも頑なになってへそを曲げてしまい、「もう食事も運動もどうでもいいか」という気分になってしまいがちです。ですから、患者さんのやる気を少し引き出すような形でご家族や友人の方が関わってくださると非常にありがたいと思います。
 このような患者さんとご家族、あるいは医療者とのすれ違いをテーマにして、『糖尿病劇場』という活動を行っています。簡単に説明すると、よくある日常の診療風景を劇にして、(俳優としては素人の)医療者が演じる劇を観たあとで、観客として参加した人達と「あの先生のどんな所が良かったかな?」とか「もう少し良くするとしたら、患者さんとどういう関わりをしたらいいだろうか?」というようにみんなで考えていこうという試みです。活動を通じて一番伝えたい事は「病院やクリニックといった医療機関に続けて通院し、医療者と良い関係を築いてください」という事です。本当の事が言えない関係では、お互いに大変不幸な結果につながります。「この薬は飲めるけれど、この薬は飲みたくない」あるいは「注射をしていく上でこういう事が難しいと感じる」など、何でも率直に言い合えるような患者さんと医療者の関係が築かれていることが、糖尿病の治療結果に大きく影響を与えると考えています。

スマイルリポート~地域の医療スタッフ探訪

森山 善文さん (健康運動指導士・医療法人偕行会)

<力を入れて取り組んでいる事>
 糖尿病等の生活習慣病の予防や改善をするための運動プログラムを作成したり指導したりする仕事を行っていますが、その中でも最近特に力を入れている仕事は透析患者さんに対する運動療法です。糖尿病が進行しますと腎臓の機能が低下し、最終的には透析治療を行わなければいけなくなってしまいます。そしてこの透析治療を行う事により、体力や筋力が著しく低下してしまいます。この場合の体力はだいたい透析をしていない方の半分程度まで落ちると言われており、これらが原因で転倒や骨折が増えて、車いすや寝たきりの状態になってしまう場合もあります。
<心に残るエピソード>
 糖尿病の合併症から下肢の切断をしなければならない患者様に対して、運動と血流改善の効果が高い人工炭酸泉治療を併用して行う事で足の切断を防げたという経験が非常に心に残っています。この方も運動の習慣が全く無く、足の血流が悪くなってしまう合併症をおこしてしまったわけです。しかし運動療法と人工炭酸泉治療をしっかり行った結果、血流が改善し切断を防ぐことができました。今後は、より多くの糖尿病患者さんに運動療法と人工炭酸泉治療を実践してもらうことが課題ではないかと考えています。
<現場で感じる課題>
 より多くの糖尿病患者さんに運動を実践してもらうことが課題ではないかと考えています。実際、糖尿病の患者様で運動療法に取り組んでいる割合は十分とはいえず、ある調査の結果では糖尿病患者の運動実施率は「50%程度」と低いという報告がみられます。これは安易に薬に頼ってしまうということが背景にあると思われます。薬は確かに即効性がありますが副作用の問題が出ます。運動は副作用の無い薬で、その効果は血糖値を下げるだけでなく幅広い効果が得られるといわれています。