うわさを聴く!
ギャリック・オールソンが、久方ぶりにリサイタルを行う。NHK交響楽団とは72年以降、4回の共演をしているが日本での本格的なリサイタルは1988年以来、実に24年ぶりとなる。1970年のショパン国際コンクールの優勝者でありながら、日本ではこの時2位だった内田光子に注目が集まり、頻繁に来日している1966年優勝のアルゲリッチ、1974年優勝のツィメルマンに挟まれて日本ではオールソンの存在が忘れられがちだったのは事実であろう。音楽評論家の道下京子さんに今回のリサイタルについて語っていただいた。
オールソンのリサイタルに期待する
音楽評論家 道下京子
ギャリック・オールソンが、久々に日本で本格的なリサイタルを行なう。2000年以降も、N響などのオーケストラとの共演で数回来日しているが、リサイタルに関しては2012年の来日でも名古屋と東京でしか開かれず、この名古屋公演は、非常に意義のあるリサイタルとなるであろう。東西冷戦の最中に開催された70年のショパン・コンクールで、アメリカ人初の優勝者となったオールソン。時代の寵児となっても、彼は着実にキャリアを積み重ねてきた。そのことは、80曲にも及ぶ膨大な協奏曲のレパートリーにも示されている。近年の演奏活動において注目すべきは、08年にグラミー賞を受賞したベートーヴェンのソナタ全集の第3巻である。ここに収められている4曲は、ベートーヴェンのソナタの中では大作ではないが、彼の明晰なピアニズムは作品の本質を見事に捉えている。厳然とした音楽構築、楽想の大胆な対比、深く温かな響き、彼の演奏意志の明確さ…そのどれをとっても目を見張るほどの素晴らしさだ。今回は、「悲愴」「熱情」といった劇的でパッション溢れる作品が取り上げられるが、彼の持ち味である優れた客観性とともに、完成度の極めて高い演奏が披露されることだろう。一方、ショパンについては、彼は何度もショパンの全曲演奏を行なっているが、名古屋公演ではそれぞれタイプの違う円熟期の3作品を選曲。彼特有の、しなやかで美しい打鍵から紡ぎ出される深い詩情と哀愁に満ちた、成熟したショパンを聴かせてくれるに違いない。特に、コンクールで賞賛されたソナタの第3番には注目だ。このリサイタルが、日本におけるオールソンへの共感とますますの評価につながることを期待したい。 |