名古屋国際音楽祭
 
2012年度のプログラム
4月7日(土) 14:00 愛知県芸術劇場大ホール
底抜けに明るく楽しいラブ・コメディーをゴージャスな歌手陣で 錦織健プロデュース・オペラ Vol.5 ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」全2幕 (原語上演:日本語字幕付)
公演レポート
ツアー最終公演となった錦織健プロデュース・オペラ“セビリアの理髪師”はこのプロダクションの総力が結集された手堅く安定した公演となり、お客様からも好意的な反応が多く寄せられた。音楽的には大変立派な演奏で、例えば兵士たちの男声合唱も第一声からコンサートを聴いているようによく声が揃い、重唱の場面になると出演者がいっせいに指揮者を注視して声を合わせるため音楽的な完成度は高かったが、音楽と引き換えに「少し演技が堅かった」という声も聞かれた。

 

事前告知
 

テノールの錦織健がライフワークにしているのがオペラのプロデュース。コロラトゥーラで聴かせるロジ−ナ役がピッタリの森麻季、彼女に一目惚れするアルマヴィーヴァ伯爵役に稀代のエンター・ティナー錦織健、そして陽気な理髪師フィガロに名バリトンの堀内康雄と最強のキャストが揃う。土曜日の昼下がりは軽快な音楽に乗せて愉快ななストーリーが展開する、ロッシーニの最高傑作をお楽しみください。

 
錦織 健 森 麻季 堀内康雄

音楽監督/指揮 現田茂夫
演出 十川 稔
管弦楽 ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
合唱 ラガッツィ
キャスト フィガロ/堀内康雄
ロジーナ/森 麻季
アルマヴィーヴァ伯爵/錦織 健  ほか
公演日 2012年4月7日(土)14:00
会場 愛知県芸術劇場大ホール
料金 S\14,000 A\12,000 B\9,000 C\7,000 D\5,000
 

大注目!堀内康雄の「フィガロ」

今回の錦織健プロデュース・オペラ「セビリアの理髪師」での注目はフィガロ役に堀内康雄が登場することだろう。今、日本を代表する世界的なバリトン歌手といえば、真っ先にあがるのが堀内康雄である。堀内は慶応大学を卒業後してミラノ・ヴェルディ音楽院に留学、ミラノに本拠地おいてフェニーチェ歌劇場、ローマ歌劇場などで長年、ヴェルディを中心にその主要作品の主役を歌ってきた。海外での活躍が多かったため日本では少しなじみが薄かった彼はこの4月から日本に本拠を移す。その最初の舞台がこのフィガロなのだ。「オペラのすそ野を広げるという錦織さんのコンセプトに共感しました。」と語る堀内。これまでイタリア・オペラの重厚な役柄や悪役を歌ってきた彼にとってロッシーニのフィガロ役は初体験。軽妙でありながら存在感のある彼のフィガロに大いに期待したい。音楽評論家でオペラに詳しい加藤浩子さんから堀内さんについてメッセージをいただいた。

堀内康雄さん!燦!讃!

音楽評論家 加藤浩子

 堀内康雄さんは、楽しい方である。
 一度、あるカルチャーセンターで受け持っていたレクチャー&コンサートに出演していただいたことがあるのだが、教室を埋めた(定員50人ほどの空間に80名!ちかくの方が詰めかけた)受講生の方々が、1時間半の講座のあいだ、ほとんど笑いっ放しだった。
 なにしろ、お話が面白いのだ。高校時代から音楽三昧の生活を送り、慶応大学を卒業後はある大食品メーカーにめでたく就職したにもかかわらず、入社したその日に「サラリーマン不適格」を悟ったという、劇的な音楽家開眼。サラリーマン道をあきらめて、以前からの夢だった歌手の道に邁進、会社のひとたちの目に触れることを承知のうえで、ロビーコンサートなどでも歌っていたという、あっぱれ(失礼!)と言いたくなる開き直り。コンクールにも積極的に挑戦し、好成績を積み重ねてめでたく(!)サラリーマンをやめ、ミラノへ旅立って行った勇気。どれもこれも、『椿姫』の原題である「トラヴィアータ(=道を外れた女)」の男性形、「トラヴィアート」とでも呼びたくなるエピソードなのに、ご本人にかかると、からりと笑ってきいてしまうから不思議だ。ひょっとしてこの明るさこそ、世界的バリトン歌手、堀内康雄を創った重要な要素だったのかもしれない。
 もちろん堀内さんの実力は折り紙つきだ。今現在、真に国際的な実力を備えた、唯一の日本人イタリア・オペラ歌手といっても言い過ぎではない。整ったフォームと美声(もちろん声量も十分)、そして表現力の三拍子が揃っているのである。さらに言えば、とかく好不調の波に翻弄されがちな歌手が多いオペラ界にあって、いつでも安心して聴けるまれな存在でもある。これこそ、本当の実力というものだろう。ある演出家によると、歌手は「調子が悪いことがほとんど」だという。それをコントロールできてこそ、名歌手といえるのだ。堀内さんはその点、すでに名歌手というにふさわしいひとなのである。
 堀内さんの美声で、多くのヴェルディの役柄を、そして近年はヴェリズモの名作を堪能してきた。その軌跡を考えると、喜劇オペラの頂点ともいえる『セビリアの理髪師』はちょっと意外に思えなくもない。ところがご本人は、以前からやってみたかったけれど機会が無かったと、大いに乗り気なよう。性格的にも、喜劇は向いていそうだ。
 実はヴェルディを得意とするバスやバリトンは、名コメディアンでもあることが珍しくない。大悲劇の『リゴレット』と、大喜劇の『セビリア・・・』の両方を得意とする、レオ・ヌッチがいい例だろう。今回、堀内さんがその仲間入りをするだろうと思うと、今から浮き浮きと待ち遠しくなってしまうのである。