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学年1位の高1女子に
学年ビリの同い年男子が 一目惚れしたら
未来はこうなった

同い年のマジですごいやつ - 「同い年のマジですごい思い出」第三話

年末年始は同窓会シーズン!同い年の仲間が集まり、あの頃の思い出話にも花が咲きます。
そんな「同い年」にまつわる各世代のエピソードを連載します!
続いては40代…。

~第三話~
『学年1位の高1女子に学年ビリの同い年男子が一目惚れしたら未来はこうなった』

平岡敏治(40代)

「ここにいる同い年のやつら、全員俺より頭いいのか…」

高校の入学式で私は震えた。

父親が夭逝し、母子家庭で育った私は、そうした生徒を対象にした推薦枠があった名古屋市立の高校に入った。 お得感を出すため、一般入試では絶対に合格できないレベルの高校に潜り込んだことを、その時初めて後悔したのだった。

通っていた中学校が、今っぽく言えばアウトレイジな学校だったため、そこでの成績はいい方。 ゆえに、新入生450人中450位というのは、ショックを通り越してもはや圧巻であった。

式はつつがなく進行し、私のクラスの最前列から1人の女子がしずしずと壇上に登った。新入生代表、トップ合格者だ。

ちなみに女子の制服は、紺色のブレザーに、いわゆる箱ヒダのスカート、それと白の開襟シャツ。昔の公務員のようだと内外問わず不評だった。

ガリ勉女子にはそんな制服がお似合いだわー、学年1位がいるこのクラスには学年ビリもおるんやでーと思いながら新入生答辞を聞く、初日からヤサぐれていた私。

しかし、彼女が校長にお辞儀をして振り返った瞬間、私の高校生活が始まった。

一目惚れだった。

学年トップの女子に、学年ビリの男子が告白して成功する確率はほぼゼロに違いないと確信した私は、とにかく勉強を始めることにした。大学受験のためではない。告白のためだ。

彼女の成績を上回ったら想いを伝えよう。そしてお付き合いして彼女と同じ大学へ通い、幸せな人生を歩むのだ。15歳、春の決意であった。

だが、真面目に勉強に取り組んだことがなかったためどうやったら成績が上がるのかが分からない。とりあえず学校で使う教科書や参考書に書いてあることを全部覚え、問題集を間違えなくなるまで何度も繰り返し解いた。

学校からはまっすぐ帰宅し、いったん仮眠してから夕方テレビで再放送されていた『一休さん』のテーマソングで起床。 そのまま視聴してトンチで頭を覚醒させてから4~5時間勉強して寝る、というサイクルを毎日続けた。 アニメの一休さんよりも修行僧のような生活だったと言って差し支えない。

入学からおよそ半年。秋にあった前期の期末試験で彼女を抜いた。

グラウンド沿いにのびるイチョウの黄色い絨毯。放課後、その上をいつもの北門に向かって歩く彼女を呼び止め、 私は降りた自転車を両手で押しながら、想いを伝えた。付き合ってほしい、と。

「じゃあ、そういうことに…しましょう」

今振り返っても不思議な言い回しだが、彼女は1字1句違わずそう言った。

翌日、私は同級生から『エンデバーマン』と称された。半年の間に自分の想いはクラス中にバレバレであったため、 二人の間がどうなったのかはすぐに知るところとなったのだった。『エンデバー』とは英語で『努力』のこと。 文法上めちゃくちゃである上に、『スーパー』と比べると極めてダサい。だが、奇跡を起こしたことに変わりはなかった。

高2の春。学校の桜の木から花びらが風に舞う頃、私は頭から髪の毛が桜吹雪のように抜け落ちるほど、猛勉強していた。

高校入学直後から友人関係もそこそこに、告白するため勉強ばかりしてきて、それ以外の全てが中学レベルで止まっていたという構造的欠陥もあり、ひとえに自らの不甲斐なさから、高1のうちに彼女に振られてしまったのだった。

進級して別々のクラスになると、校舎の設計ミスを疑うほど、すれ違うことすらなくなり、顔を合わせることもほぼなくなった。

振られたけど彼女が好きだった私。迷惑かもしれない直接的なアプローチは一切せず、彼女の方から、私の素晴らしさについて改めて気付いてくれるのを期待することにした。 校内で行われる全ての行事をアピールの場に活用したのである。

中でも最高に目立てるのが、テストの成績の貼り出し。

全教科および各教科の成績上位者が、校内で最も人通りのある廊下に貼り出されるのだ。 そこに「平岡敏治」と載せるためだけに、死に物狂いで勉強していたのだった。

名前はテストのたびに何度も何度も貼り出され、無意味に成績だけが上がり続けた。

しかし、奇跡は再び起こることなく、『エンデバーマン』の高校生活は2年生で幕を閉じる。

ある日の放課後、下駄箱から学校の北門へ向かう彼女は、初めて見るような幸せそうな顔をしていた。 その横には、私より成績がはるかに下だけど私よりはるかにカッコいい、同い年の男子。 二人は寄り添い、時折見つめ合いながら、1年前よりも少しくすんだ黄色いイチョウの絨毯の上を、ゆっくりゆっくり歩いていた。

卒業式は、講堂が手狭だという理由で、名古屋市内のホールで開かれた。

式典が終わり、黒いお決まりの筒を持った卒業生に加え、花束を抱えてお祝いに来た下級生や、とりあえず泣いている親御さんらでロビーがごった返している。 私は同じクラスの連中との別れもそこそこに、一度出来なかったことを今度こそするため、彼女を探した。

結局、彼女と同じ教室で勉強していたのは出会った最初の1年間だけで、ほかは見事にバラバラ。 仮にずっと同じクラスだったとして、未来の何かが変わったとも思えない。だが、最後の日くらい勇気を出そう、そう思った。

彼女はホールの中庭から差し込む春の日差しに照らされ、自身のクラスメートたちと抱き合うようにして話し込んでいた。うん、勇気を出そう。

「一緒に、写真撮ろうよ」

初めて出会った、高校の入学式から数えておよそ7年。

上下紺色の真新しい制服姿で答辞を述べていた、まだあどけなさのあった彼女は、ピンクの着物に濃い紫色の袴姿がとてもよく似合う、素敵な女性になっていた。 私の声に振り返り、ちょっと驚いたような表情をした後、彼女は照れ臭そうにふんわりと微笑んだ。

友だちにカメラを渡して、彼女の横に並んだ時、同じ経済学部の卒業証書が入った黒い筒同士がコツンと当たった。

平岡敏治

(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)