宇治橋上空より伊勢神宮を眺めると、その背後には神聖な森が広がる。
その森を貫くのは聖なる五十鈴川。清らかな水をたたえ、神職や参拝者が身を清める川である。
その水中を覗くと多種多様な水生生物が命を紡ぐ。
水辺には鳥や昆虫が集まり、木々は新芽を息吹かせる。
その多くは日本固有種や絶滅危惧種。
人が入山を許されない神域ゆえの生態系が現れる。
同時に、神様も五十鈴川の恩恵を受けている。
神様に毎朝夕、届けられるご飯は五十鈴川の水で育ったお米。
塩も五十鈴川の水を煮詰めて焼き固めたもの。
神様の為になくてはならない豊かな自然は、それ自体が、生き物たちの楽園を形成している。
五十鈴川は、その水源地にも生命を宿す。
頂上付近の崖からしたたる水滴。
そのわずかな水の中にも希少な生物たちの営みが見える。
幼生たちが静かに命を育んでいる。
水が生命の源であることを、この神々の森は物語る。
一滴の雫が川となり、命を守り神様をも潤おす。
水はやがて空へ舞い上がり、繰り返し神宮の森へと降り注ぐ。
神宮の「祈りの心」が、五十鈴川の「水の巡り」を今に守り、この地に稀少な生態系を残してきた。
多くの日本人が自然に対して畏敬の念を抱く。
日本人が神宮を「心のふるさと」と感じるのは、神宮が貴重な自然とともに、そこにあるからかも知れない。
平成28年度文化庁芸術祭参加作品