ワールドカップに向かって走り続ける/姫野和樹(ラグビー)
Column
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RUGBY WORLD CUP 2019™
Road to JAPAN 2019

ワールドカップに向かって走り続ける

姫野 和樹(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)
2018.04.24

トップリーグ・トヨタ自動車ヴェルブリッツや初選出の日本代表で大活躍し、 2017-18シーズンで新人賞を受賞したこの人こそ、今、日本で最も注目を集めているラガーマンではないだろうか。 充実のシーズンを振り返りつつ、1年半後に迫ったラグビーワールドカップへの抱負を語ってもらった。

※平成30年3月1日発行のaispo!記事を再掲しています。

日本代表デビュー戦でトライをゲット

目の前に敵がいても関係ない。ひとたびボールを持てば、身長187㎝、体重112㎏の大きな体を生かし、がむしゃらに前へと進む。さながら重戦車のような突破力こそが姫野和樹選手の最大の魅力だ。

そのボールキャリアとしての能力が認められ、昨年11月に日産スタジアム(神奈川県)で日本代表デビューを果たした。相手は世界有数のラグビー大国オーストラリア。ラグビーワールドカップ2019(以下、RWC2019)決勝の会場でもある同スタジアムには、4万人以上もの観客が詰めかけた。そんな大舞台にも物怖じせず、姫野選手は普段通りの力を発揮。その能力の高さを示した。

中でも圧巻だったのが、防戦一方のゲームで後半ロスタイムに見せたラストプレー。相手ゴール前5mのラックからパスを受けると、敵のタックルにも倒れることなく巧みに体をターンさせて抜け出し、そのままインゴールに飛び込んで、トライ。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチも「いい経験になった」と誉め称えた意地の一撃に、溜飲を下げたファンも多かったことだろう。スタジアムはこの日一番の盛り上がり。ニューヒーローの誕生を予感させるものだった。

ワールドカップに向かって走り続ける

ルーキーでキャプテンに就任
重圧と孤独に耐えた日々

姫野選手が日本代表に選ばれたのは、もちろん所属するトヨタ自動車ヴェルブリッツで安定したプレーを見せていたからだ。帝京大学で大学選手権8連覇達成に貢献し、ラグビーを始めた中学生の頃から応援していたという地元のチームに今シーズンから入団した。同じく今シーズンから指揮をとるジェイク・ホワイト監督に見いだされ、ルーキーでありながら開幕戦にスタメンとして抜擢されると、レギュラーに定着。ここ数年不振が続き、ずっと中位に甘んじていたチームをトップ4に押し上げる原動力となった。

ヴェルブリッツでも、日本代表でも、大いに存在感を示した姫野選手。ルーキーイヤーを振り返る中で口をついた答えは意外なものだった。「辛いことばかりの1年でした」。

2007年のワールドカップで南アフリカを世界一へと導いた名将ホワイト監督は、「インターナショナルなプレーヤーに育てる」という理由で、ルーキーの姫野選手をチーム最年長で元日本代表でもある、北川俊澄選手とともにキャプテンに任命したのだ。代表経験のあるベテラン選手や世界的に名の知られた外国人選手など、多彩な顔ぶれが揃う中、23歳の若さでチームのまとめ役を任されたプレッシャーは、姫野選手に重くのしかかった。とくに就任当初は「実績も何もない自分の言うことなんて、誰も聞いてくれないのではないか」と悩み、孤独感にさいなまれる日々が続いたという。

どうしたらキャプテンとしてチームに受け入れてもらえるのか。心の内でのさまざまな葛藤の末に導き出したのは「人一倍努力する姿を見せて、チームメイトからの信頼を勝ち取る」という答えだった。試合はもちろん普段の練習でも、常に先頭に立って誰よりも声を出し、誰よりも走り、誰よりも体を張り続けた。そんな若きキャプテンの懸命な姿にチームメイトたちも呼応。試合を追うごとに、チームは一つにまとまっていった。

北川、姫野両キャプテンのもと、一つになったヴェルブリッツは7年ぶりに日本選手権ベスト4へ出場。初戦のパナソニックワイルドナイツにわずか6点差で敗れ、目標としていた優勝に手が届かなかったが、確かな手応えは感じることができたという。「ヴェルブリッツは確実に成長しています。来シーズンこそは、ぜひとも優勝したいですね」。

ワールドカップに向かって走り続ける

ワールドカップ出場に向けて世界レベルを体感

激動のシーズンを終えたばかりだが、姫野選手に休む間はない。2月からはスーパーラグビー・サンウルブズでの活動が始まっている。世界最強のプロリーグと言われるスーパーラグビーに2年前から参戦しているサンウルブズは、日本代表選手を中心に編成されたチーム。強豪との実践を重ねることで、日本代表の強化につながると期待されている。初めてスコッド入りした姫野選手は楽しみで仕方がないという様子でこう語ってくれた。「タフなゲームが続くと思いますが、世界レベルを体感することで、いろんなことを学びたいと思います」。

姫野選手がサンウルブズでの活動の先に見据えているのは、RWC2019。地元で開催される大会に出場するためにも、実績を残したいと考えている。「地元での開催は一生に一度のチャンスなので、課題を一つ一つ乗り越えて代表の座を勝ち取ります」。RWC本番の2019年10月5日には、豊田スタジアムで日本代表戦が行われる。桜のジャージーを着た姫野選手が、地元の大声援を背に、ピッチを縦横無尽に駆け巡る姿が見られることを、期待したい。

Kazuki Himeno

トヨタ自動車ヴェルブリッツ

姫野和樹
1994年7月27日生まれ。名古屋市出身。中学からラグビーを始める。春日丘高校(現中部大春日丘高)で頭角を現し、高校日本代表やU20日本代表候補に選ばれる。帝京大学では、大学選手権8連覇に貢献した。大学卒業後、2017-18シーズンよりトップリーグ・トヨタ自動車ヴェルブリッツに入団。キャプテンとしてチームをまとめ、躍進の原動力となった。2017年11月のオーストラリア代表とのテストマッチで日本代表デビュー。キャップ3。スーパーラグビー・サンウルブズの2018スコッドにも選ばれている。

取材・文=鶴哲聡
撮影=松本幸治
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